心の在り処

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 沙代が俺の元に初めて訪れたのは、木々の葉も落ちて寒くなってきた頃だった。  左目を白い布で覆い、見える右目だけでこの保健室にやってきた生徒が沙代だった。  部活動でバスケットボールをやっていると話し、常に手が荒れていた沙代。そんな手で目をこするもんだから、手の細菌に感染した沙代の左目はものもらいを患い、俺の元を訪れたのは代えのガーゼを求めてだったことを覚えている。  沙代の右目は綺麗な色をしていて、左目のガーゼを取り替える俺の事を真っ直ぐにジッと見据えるものだから、俺はその目に惹きつけられてしまった。  養護教諭としてこの高校に配属されてまだ半年と少し。その日から暫くは度々、沙代が俺の元を訪れるようになった。要件は左目を覆うガーゼの交換のため。左目が治れば、きっと君は元気に羽ばたいてしまうのだろう。  俺の役目はそれだけだ。傷ついた小鳥たちを介抱し、また大空へと飛び立っていくのを見守るだけ。そう思っていた――――
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