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沙代は無邪気を絵に描いたような女の子だった。天真爛漫なその姿は俺には眩しすぎて、なのに沙代はほぼ毎日のように保健室にやって来る。
輝く太陽が、俺に向けられる笑顔が、堪らなく愛おしいと感じていることに俺が自覚するまで、そんなに時間はかからなかった。
同時に、生徒と養護教諭という関係である事が、俺の心を苦しめた。沙代が保健室に来る度、嬉しい。けれど、これ以上踏み込んではいけない。そう思うように努力した。
いつしか、それが態度にも表れるようになり、俺は沙代を遠ざけるような事ばかりを言うようになっていく。
あの時、沙代が初めて保健室に来たとき、見える方の右目だけでジッと俺を見据えていた事を思い出す。言葉も交わさず、俺は沙代の左目のガーゼを取り替える。片方だけの沙代の目に俺はどう映っていたのだろうか?
両目で俺を見るようになった今と、あの時では大きく違う気がする。あの時は患者みたいなもの。今は……
閉じていた左目を開いたとき、その穢れの無い瞳に俺はどう映ったのだろうか?
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