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市役所から一斉に人が飛び出してきた。みな一様に焦っている様子で、外にならんでいる人々とぶつかりながら、我先にとその場を離れようとしている。
何が起こったのか分からないが、ただ事ではないということだけは分かった。
この行列にならんでいれば明日を手に入れられるはず。そう信じていた人たちは目的地を見失い、どうすればいいのか分からないといった様子だ。
「おい、何があった」
市役所から逃げてくる中年男性を無理やり引きとめ、さっきのホームレス男がたずねた。
「発砲だ!警官が発砲した!」
市役所から出てきた中年男性はその目で確かに見たという。明日券が無くなり、逆上した市民に向けて警察官が銃を撃ったのだ、と中年男性は言った。
警察が市民に向けて突然、銃を発砲したというのか。にわかには信じられなかった。
「早く逃げろ!」
中年男性はホームレス男の腕を振り払うと一目散にその場から逃げていった。
市役所の周りは混沌としていた。悲鳴や叫び声を上げながら逃げていく人々。けがをしているのか、足を引きずっている人もいる。まるでパニック映画のワンシーンを見ているようだった。
自分を含め明日券を手に入れられていない人々は明らかに戸惑っていた。逃げるべきなのか、それともこの場所にとどまるべきなのか。
「一体何が!?」
人ごみのせいで市役所内がどうなっているのかはわからなかった。
「な、言ったろ?」
男は競馬場で大穴でも当てたような表情で話しかけてくる。
「とりあえずここを離れたほうがよさそうだな」
「でも、明日券は?」
バーン!と、さっきと同じような音が聞こえ、またも悲鳴が上がった。音の大きさから今度はもっと近くのようにも感じる。
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