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缶ビールを持ったまま唖然としていた。目の前の映像に理解が追いつかない。
テレビの画面はニュースからCMへと切り替わっている。荘厳な音楽とともに、この掃除機が一度にどれほどのほこりやゴミを吸うことができるのかを分かりやすく説明していた。
明日券が発行されていない。しかもその数は相当数にのぼっていると思われた。そんなことがあるのか。
リモコンのボタンを押し、別のチャンネルを回す。
やはり同じだ。都内からの中継で、現場のレポーターがカメラに向かって鬼気迫るような勢いでしゃべっている。
「明日券の発行がなされていないという人々が国会議事堂前に続々とつめかけ、周辺は物々しい雰囲気に包まれています!」
初めは海外のお祭りでも見ているような気持ちだったが、どのチャンネルを回しても流れてくるそのニュースを見ているうちに、少しずつこれが現実であることを実感する。
スタジオのニュースキャスターもいつもより少し興奮した様子で、視聴者に冷静さを保つように呼びかけているが、それはまるで自分に言い聞かせているようにも思えた。
ハッと我に返った私は、みぞおちの奥に鉛を飲み込んだような、どす黒い不安が湧き上がってくるのを感じる。
私はまだ、今日届いているはずの明日券を見ていない。
無理もない話しだ。今日どころか普段から明日券など気にも留めていないのだ。毎日送られてくる明日券は次の日の朝には無くなっており、また新しい明日券が届く。いつの間にかその存在など気にしなくなっていた。
私はテレビの前から立ち上がり、玄関の棚の上に置いてある郵便物の束を漁った。
ない。明日券がなかった。いやきっとどこかに挟まっているはずだ。いつもなら気にすることもない切符のような紙切れが、このときばかりは別れた恋人のように愛おしかった。もしミホと別れたら、やはりこんな気持ちになるのだろうか。
玄関からアパートの廊下まで隈なく探したものの、結局明日券は見つからなかった。
どうする?再びテレビの前に戻って来ると、相変わらずレポーターが興奮した様子で話している。
「明日券を求める人々の数は、どんどん増えています!」
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