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市役所へと続く大通りの角を曲がり、私は目を疑った。市役所の前には予想を超えた数の人々が押し寄せていた。いつもは閉庁している時間にもかかわらず、市役所に大勢の人が集まっている光景は異様だった。
「明日券をご希望の方は3列になってお並びください!」
市役所の職員とおぼしき男性が拡声器を使ってアナウンスをしているが、どう見ても集まった人の数に対して職員の数が足りていないように感じる。
辛うじて列をなしてはいるが、長蛇どころかまるでナイル川のように長く伸びた列は、どこが最後尾なのか見当もつかなかった。ここに並んでいる人はみな、今日中に明日券を受け取ることはできるのだろうか。
そう感じているのは私だけではないのだろう。明日券の配布は始まっているものの、集まっている人全員が不安を抱えているのは明らかで、人々の感情に怒気が混ざっているのを感じる。テレビの中でレポーターが「物々しい雰囲気に包まれています」と言っていた気持ちが分かるような気がした。
列に並ぼうと最後尾を探しているときだった。「よお、あんたも明日券をもらおうとしてんのか」と、声をかけられた。
その男は綺麗な格好とはいい難く、ダウンジャケットに白髪頭。老人という年齢ではなさそうだが顔には無精ひげが目立ち、いかにも怪しい雰囲気が漂っていた。
「明日券を手に入れることはできねえよ」
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