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「あー。ダメだぁ。」 目の前にあった原稿用紙の束を腹いせに宙へとほおり投げる。 バサーっと音を立てて舞い上がり、次いでヒラヒラと私の周囲に降り注ぐたくさんの白い紙。 途端に散らかる私の部屋。 「・・・・・・掃除しよ。」 どんなに机に向かった所でできない時は出来ないのだ。そういう時にはいくら粘ろうと無為な時間が過ぎていくだけ。 よっこらしょと重い腰を上げて自分が先程盛大にばらまいた紙たちを1枚1枚拾い集めていく。 どれもこれも途中で終わっていたり、意味も持たない文字の羅列になっていたり、荒ぶった黒が走り回っていたりと随分と騒がしい。 「ふふふ。」 我ながらだいぶ煮詰まっている。 もはや笑えてくるほどに。。 1枚1枚拾っては、内容を読み返し自分の中で再度描きたいものを構築していく。 「・・・あれ?」 最後の1枚を拾い終えて、首をかしげる。 手元に集まった用紙をパラパラと数え確信する。 「1枚足りないな。」 そう、自分が消費したはずの枚数と手元にある枚数の数が合わないのだ。キョロキョロと辺りを見回して見るが探し物は見つからない。 結構派手にぶちまけてヒラヒラと待っていたのでどこかにスっと入り込んでしまったのだろう。大変めんどくさい事になってしまったが、ぶちまけたのは他でもない自分自身だ。 しょうがないとひとつため息を吐いて、薄い紙がヒラヒラと入り込んでしまいそうな隙間を覗いて回る。 没作品ではあるが、あれは次に自分が描き始める時には重要な資料になったりするのだ。どこから何に繋がるか解らないので自分の生み出したものは極力手元に持っておきたい。 ・・・まぁ、あまりにもホコリにまみれていてしまっていたら諦めるしかないのだが。 「どこに行ったのー?」 1人で呟きながら棚の影を覗いて回る。 するととある隙間に入り込んでいる紙を見つけた。 手が入りそうに無かったので、下敷きを使って引き寄せて見る。 なかなか思うように手繰り寄せられなくて苦労したが、なんとか引っ張り出せてホッとする。 しかし、引っ張り出したそれに目を向けると 使っているものよりも少し大きめのマスに並ぶ歪な文字の羅列。所々間違えたのかぐしゃぐしゃと塗りつぶされた箇所があったり、マスの大きさを無視するように文字がはみ出したものもある。 「・・・・・・なつかしい。」 それは、小学生の自分が学校の宿題で書いたとある休日の作文だ。 自分の部屋が欲しいのにお母さんは大きくなったらねと言う。1年生の時にもそれを言われて今はもう5年生になるのに。一体お母さんが言う大きくなったらは一体どこにあるのかと幼い自分が憤りをぶつけるように書いた作文だ。 「ふふ。」 思わず、笑いが込み上げてしまう。 そこにいるのはあの時の私。 素直で純粋に色んなことに一生懸命で全力に生きていた幼い私。 なんだかとっても不思議な気分だ。 まるで、過去の自分にあっているみたい。 そこまで考えて、ふと先程まで向き合っていた机へと私は視線を向ける。 頭の中にかかっていたモヤがふわぁ。と晴れてその先に何かが見えた。 私は自分の中に現れたそれを漏らさないようにペンを握りしめ一心不乱に机へと齧り付く。 カツカツカツと、静かな部屋にペンの音だけが響き世界の全てが紙の中へと吸い込まれていく。 新しく紡がれ産まれたこれは一体どんな物語になるのだろうか? さぁ、まずは1ページ目。 end
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