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明日の天気
「あーした天気になーあれ。」
ブォンと勢いをつけて飛んで行ったその靴を子供たちがキャラキャラと笑いながら拾いに行く。
楽しそうにじゃれ合いながら2、3人の子供たちが通り過ぎるのをぼーっと眺めた。
(懐かしいなぁ。私も昔やったな。)
表が晴れ。裏が雨。横向きが曇りで、縦は雷。
本当に当たったらもはや奇跡だと思われるほど命中率の低い占い。
何故あんなに流行ったのかも、どうしてあんなにその行為が好きだったのかも今では全く思い出せない。
ただ、靴を飛ばして靴の向きがどうなっているのかを見るだけだと言うのに幼い頃の記憶の中にいる私は嬉嬉として靴を飛ばし、その度に母に怒られている。
「危ないからやめなさい」と母が怒るのもお構い無しに私がやるものだから、最終的に「ななちゃんはお靴いらないのね」と取り上げられるまでがワンセットだった。
その度に私は泣き喚いて母にすがりついていたっけ。
「・・・学習能力のなさは昔からかぁ。」
先日、怒鳴られた言葉が頭の中に響いて不覚にも弱々しい声が出た。ぐっと下唇を噛み締めて滲む視界を睨みつける。
なんでこうなんだろう?どうして私はいつも。
答えのない問いかけがぐるぐると頭の中を駆け巡る。
「きゃははは!!!」
遠くではしゃぐ子供たちの声に、自然と手に力が入った。眉にもぐっと力が入り子供たちから目が離せない。
「ねー!もーいっかいやろ!!!」
限界だった。
子供たちの楽しげな声に、私の何かが弾けて元気に遊ぶ子供たちに一直線に向かっていた。
幸せげな子供たちの表情がみるみる間にギョッとした顔に変わっていく。
そんなことお構い無しに子供たちの前にたった私は大きく息を吸い、
「わ、私もいーれーてー!!」
・・・・・・・・・・・・。
パチパチパチと目の前にいる子供たちが瞬きをするのが見える。
自分の顔にかぁーっと血が登って行くさまがよくわかった。恥ずかしい。勢いでつい、声をかけてしまったけれどこれ、傍から見たら不審者!!
猛烈に反省を頭の中で繰り返すけれど、飛び出してしまった言葉はもう消せない。
まるで告白の返事を待つ少女のように顔を真っ赤にしたまま子供たちの返事を待つ。
子供たちは首を傾げたり、なにかコソコソ話していたりしたが目を合わせあい
「いーーいーーーよーーー!!」
元気な声で受け入れてくれた。
あからさまな不審者を受け入れてくれたことに不覚にも涙がこぼれそうになる。
「じゃぁ、おねえさん初めてだから1番ね!!」
「ここがスタートだよ!」
「う、うん。」
感動に打ちひしがれている私に構わずテキパキとゲーム進行する子供たちについて行ってスタート地点にたつ。
「いくよ?」
「せーーの!!」
「あーした天気になーあれ!!」
大きく放物線を描いた靴はポテリと地面に落ちて子供たちがわらわらと確認しに行く。
「晴れーー!!」
元気に響いたその声に、心からの笑顔が溢れた。
end
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