電車

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電車

ガタゴトと揺れながら電車は進む ぼーっと眺める窓の外にはたくさんのビル (なにを、してるんだっけ?) ぼんやりとする頭で考える (どこに行きたいんだっけ?) 電車に乗っているのだから、目的があったはずだ。 だって乗り込む時はあんなに心弾ませていたんだから。 ふと、車内へと目を向ける。 賑やかだった車内は今は閑散としていて、なんだか薄暗い。 ここは、もっと明るいところではなかっただろうか? キラキラしていて、ワクワクしている所に僕らを連れていく。 そんな素敵なものでは・・・・・・。 ゆっくりと視線を落とし、己の両手を見つめる。 (こんなもので、一体何が掴めるだろう。) こんなに小さな手では、2本だけの手ではなにも掌には残らないだろうに。 (何をしてるんだろう。僕は。) カタンコトンと遠くで電車の音がする。 スピードが徐々に遅くなり、今では走っているのかそうじゃないのか体感だけでは分からないほどだ。 (もう、いいか。もう、ぼくは。) 電車が止まる。 もう、車内には誰もいない。 ゆっくり立ち上がり扉の前へと体を引きずるように歩いた。 プシュー。 と軽い音がして扉が開く。 1歩だ。たった1歩踏み出すだけで世界は変わる。 車体とホームの境目をじっと見つめ、足を出そうと踏ん張るがなかなか上がらない。 自然と体に力が入る。 歯を食いしばり、掌に爪がくい込んでいく。 降りるのか? 僕は。こんなところで?こん中途半端なところで。 何もしてない。何もなせていない。何も残せないままで!!! 「嫌だ!!!」 「嫌だ!嫌だ!降りたくない!!続けていたい!!僕は、僕はまだ走れる!!!!」 行き先は分からない。もう、どこを走っているのかも分からない。 でも、降りたくない。降りたくないのだ。 キツイ。苦しい。寂しい。 この先にあるのが苦しい事ばかりだとしてもそれでも僕は。 ぐっと体を後ろに倒す。 1歩、足が扉から遠のいた。 プシュー。 開いた時と同じ音がして目の前で扉が閉まった。 ぐしゃぐしゃの顔を袖で乱暴に拭って、真っ直ぐと進行方向へと視線を向ける。 車内に煌々と灯りが灯った。 end
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