自由に

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自由に

じゃらじゃらと音がする。 「ーーさんは本当にいい子ね。」 息をきらして、白い煙を吐きながら響き渡るその音に耳を傾ける。 「しっかりしていて、本当に頼りになる。」 「ーーさんに任せておけば大丈夫ね。」 「さすがーーさん!」 じゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃら。 この音が鳴り響くようになったのは一体いつからだったか。 ギリギリと身体を締め付けるようになったのは。 貼り付けられた表情が剥がれなくなったのは。 どこにいても、何をしていても真っ暗で 胸に大きな大きな埋められない穴がある事に気がついたのは 一体いつからだろう? パキンッ。 唐突に響いたその音に、私は足を止めた。 短く吐き出される白い煙と代わりばんこで突き刺さるような冷気が身体に入ってくる。 ゆっくりと足元に落とした視線の先で細かい白い線がパキッパキッっと音を立てて走っていく。 あぁ。そういえばもう、薄くなってきてるって言ってたな。 冷静に考えたその瞬間 私はたくさんの氷たちと共に落ちた。 冷たいのか熱いのかもわからないものに全身を包まれて下へ下へと落ちていく。 轟轟と響く音になぜだか酷く安心して、強ばっていた手足から力を抜いた。 霞んでいく視界に、自身が吐き出した最後の空気で揺らぐ 大きな月が映った。 ーーーーーーーーーーー そうして、深く深く落ちていった魂が何の間違いか再度地上へと戻ってきてしまった。 寒さにめっぽう弱い身体で。 お得意の愛想笑いで溶け込み、他人と距離を置き、 そしてその距離をどうしようもなく寂しいと嘆いて じゃらじゃらとあの時ほどではないが絡みつくそれらを見つめて、全部振りほどき壊したい衝動を抱えて 空を見上げ月に手を伸ばし、身も世もなく『 自由』を渇望している。 そんな魂がもがきもがいて、必死に手を伸ばして。 そうして出会った沢山の光に導かれて、暖められ、己も誰かにとってそうありたいと手を一生懸命に広げようと更にもがいて 私はきっと、そんな魂で構成されている。 end
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