ただ

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ただ

世界で一番醜いのはお前だと、誰かが僕 へと指を向ける 僕はその指を払いながら嘲笑う 『だからなんだ』と 人間は醜く出来ているんだ 胸の内にどす黒いものを宿して産まれてくる どんなに取り繕い白を塗り固めようとも下の黒を消すことはできない 時間を掛けてゆっくりとシミ出していく 世界で一番欲深いのはお前だと、誰かが僕をなじった その言葉に僕はため息をついた 『それの何が悪い』と 人間は欲深く出来ているんだ それは身体の内に深く深く根付いているもの どんなに綺麗事で飾り立てようと根本をたどればそこに行き着く 深く深く根付いたそれを取り払うことは不可能だ 赤ん坊が純粋?一体君は何を見ているんだ 赤ん坊こそが人間が醜くて欲望にまみれた存在だと証明しているじゃないか 彼らは弱い 一人では生きられない、死んでしまう だからこそ、可愛がられる必要があるのだ だからこそ、嫌われてはいけないのだ その為に彼等は必死で白を厚く厚く塗り固め 綺麗事の鎧を着けて今日も今日とて愛想をふりまく 生きるために 自分のために 大人になれば一人でもある程度生きられる 他人との接し方を知って自分に必要なモノとそうじゃないモノを振り分ける だから、白がだんだん剥げていく だから、鎧が脆くなる ただそれだけの話さ ただそれだけの事さ 世界一醜い? 世界一よく深い? 『それがなんだ』『それの何が悪い』 僕はただ人間として元に戻っただけ ただそれだけの事 ただそれだけの話
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