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今の僕は彼女の話を聴いてあげることしか出来ない。
彼女に優しい言葉をかけてあげるのも励ましの言葉をあげるのも僕の気持ちを伝えることも出来やしない。
けれどももし、彼女と一緒にそこにいけたなら、僕は彼女と会話することが出来るかもしれない。
「ふふ。喜んでくれたみたいで嬉しいわ。」
僕の心の中を彼女は汲み取ったように僕へと微笑みかけた。
「本当は少し恐かったの。貴方が嫌がるんじゃないかって。
パパやママ、先生達みたいに哀しい目で私を見るんじゃないかって。」
『とんでもない!!』
僕はそう叫びたかった。彼女と一緒にいられる事を嫌がるなんてあり得ない。
彼女は僕だけが特別だと言うけれど、僕にとっても彼女だけが特別なんだ。
僕は声を出すことが出来ない。
だから誰も僕に話しかけてなんかくれなかったんだ。
誰も僕を気にかけずにまるでそこに居ないかのように扱う。
ある子に至っては僕のことを『気味が悪い、恐い』なんて言って僕にモノを投げつけたりした。
痛くて恐くて寂しくて、それでも声も涙も出なかった。
僕に出来るのはただその子が僕の前から去るのをジッと待つことだけだった。
世界の全てが敵に見えて、まるで世界から切り離されたかのようだった僕の前に彼女は現れた。
優しく僕に微笑みかけて、楽しそうに僕にいろんな話を聞かせてくれた。
僕のことを抱きしめて「貴方が大好きよ」と囁いた。
僕がどれだけ嬉しかったことか。
僕が心の中で彼女への想いを噛み締めていると彼女はそれを汲み取ったように
「あぁ、だから大好きよ。悠ちゃん。優しくてかっこいい私だけの悠ちゃん。愛しているわ。」
と嬉しそうに笑みを浮かべて僕を抱き寄せた。
『僕も愛しているよ。』
暖かい気持ちに包まれて、僕も心の中で応える。
気が狂いそうになる程真っ白な病室で薬品の香りを身にまとい、沢山の管に捕らえられた美しく可愛い僕だけの姫。
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