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遠くで看護師さんの声がする。
「あの子、また彼の名前を呼んでいるわ。」
「本当に可哀想な子ね。もう体も治らないんでしょ?」
「せめて、最後の時まで幸せな夢の中に。」
ここ迄聴こえてくる彼女の陰口に彼女の腕が強く僕を締め付ける。
僕は彼女をいたわるように笑みを彼女へと向けた。
『大丈夫。僕が居るよ。悲しくないよ。寂しくないよ。』
伝われ、伝われと想いながら。
「愛しているわ。悠ちゃん。」
縋るように震えた彼女の声が耳元で聞こえる。
『僕も愛しているよ。』
僕ももう一度彼女に応える。
『たとえ君が僕に他の誰かを重ねて見ていたとしても。
だって、僕のような人形は人に愛されることが幸せなんだから。』
震える彼女の身体を抱き締めることの出来ない小さく冷たい身体と動くことのない口。
けれどもせめて彼女のためにと変わらないこの優しい微笑みを彼女だけに向け続けた。
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