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要するに、僕は臆病の弱虫だった。
木刀を離さなかったのも、ただ怖かったからだ。見下していてのは、理由がほしかったからしていた後付けに過ぎない。
僕は刀を持てる器じゃない。
その点、兄の零士なら安心だ。
「道場、今日も来ないのか。」
落ち着いた雰囲気の兄さんは道場の先生がよく似合う。
「僕は刀を持てない人間だ。・・・これさっき、明希にも言ったんだ。」
苦笑しながらそういう僕に兄さんはじっと僕の目をみて言った。
「父さんはお前にたくした。」
「・・・知ってるよ。」
知っている。そんなことは知っているのだ。その言葉を僕は直接聞いているのだから。
兄さんの真っ直ぐな目から逃げたくて僕は目をそらした。
「俺も、道場を継ぐべきはお前だと思ってる。だからあの時俺は口出ししなかったんだ。」
あの頃の僕なら、当然の評価だと思うだろう。
でも今は違う。僕がどれだけ滑稽な事をしていたか、兄さんは近くで見ていたのに。
僕がどれだけ無様にあの戦場から戻って来たのか知ってるのに。
なぜここまで過大評価をするのか解らない。
もう一度兄さんと目を合わせて、僕は断言する。
「もう二度と、刀を握らない。僕は人を殺すのなんか嫌なんだ。」
今でも思い出す。
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