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激しい叫びの渦に生々しい血の香り。
肉に刺さる感触。骨を叩きおる振動。人の命が消えてく感覚。
全部全部刀を通して伝わってきた。
僕が殺したんだと嫌でも実感した。
弱虫と罵られても、臆病者と蔑まれても、僕はもう刀は取らない。いや、取れない。
恐いんだ。人を殺すのが。恐ろしくて恐ろしくて堪らない。
瞼の裏にその光景が蘇ってくるようで、僕は首を左右に強く降る。
「僕は、僕なんかより兄さんの方が向いてると思う。」
それだけ伝えてその場を去る。
「だからこそ、お前が道場を継ぐべきなんだ。」
中庭に一人残された兄さんが僕の事をじっと見ていたことに、僕が気づくことはなかった。
「よう!透。」
家を出たところで呼び止められて振り返る。
最悪だ。あからさまに顔をしかめると相手にも伝わったらしい。
「そんな嫌そうな顔すんなよ。昔馴染みだろ。」
彼も昔の僕を知ってるひとりだ。
家の道場の門下生で、僕と競いあっていた。いわばライバルと言うやつだ。
「久しぶりだなぁ。元気か?」
僕の心情を知らず、彼は楽しそうに僕に話しかけてくる。
「あぁ、久しぶり。まあ、元気だよ」
「なんだよつれないなぁー。せっかく良い話持ってきたのに。まぁいいや。」
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