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 聞き慣れたメロディーにゆっくり瞼を開けると、満月と満天の星空がいつも通りボクを見下ろす。  ここは不思議なところだ。ついこの前まで満開の桜並木に囲まれていたと思ったら、一転して波打つ七色のカーテンのようなオーロラが広がっている。かと思えばやしの木が生えているビーチに変わっていたこともあった。  ぼんやりと尾を引いたまま止まっている流れ星を見つめていると、やがて『窓』が現れ始めた。  複数の窓に囲まれたボクは、縮小、拡大を繰り返すそれを何気なく眺める。  その内に、窓の数はどんどんと増えていき、やがて星空を埋め尽くす程となった。  窓の奥でちらちらと何かが動いているが、特に興味は湧かない。  名前が無いのも不便なので、ボクは勝手にちらちらと呼んでいた。  ボクの役目は、毎日変化する窓を記憶し続ける事。  複数の窓から発せられる夥しい量の情報が、いつも通り同時に頭に流れ込んでくる。  しばらくすると、情報の数々で頭が満杯になり、空気を入れすぎたタイヤが破裂するイメージが脳内を支配した。  「ぁあっ、もう限界」  思わず悲鳴を上げると、ちらちらが凍りついたように動かなくなり、しばし静寂が空間を満たす。  その間に、頭を占領していた情報を整理し、ほっと息をつく。  それを見計らったかのように、ちらちらが動き始め、再び情報の波が頭に流れ込んできた。  毎日毎日同じ事の繰り返しだ。情報に埋め尽くされ、悲鳴を上げ、しばしの休息の後にまた埋め尽くされる。何回も何回も繰り返している内に、やがて眠りの波がボクを包み込む。  まるで、過酷な仕事から逃れるように。  すぐに、休息などなかったかのように情報が雪崩のように押し寄せてきた。  「っぁああああ、だから限界だって!」  本日二度目の悲鳴を上げ、ちらちらが再び凍りついた瞬間、ボクの目の前に滑り込むように見慣 れないやや小振りな窓が現れた。  窓には「警告」という二文字とその下に細やかな文章が綴られている。  目を眇めて文章を眺めた瞬間、唐突に窓が砕かれた。  そう、砕かれたのだ。ピコン!と悲鳴のような音を立て、内側から木っ端微塵に砕け散る。    唖然と窓の破片を浴びていたボクは、目の前に誰かが立っていることに気が付いた。
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