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聞き慣れたメロディーにゆっくり瞼を開けると、完全なる暗闇が辺りを覆っている。
「おはよーさん」
凛と張りのある声が聞こえ、首をめぐらすと真っ黒な瞳と目が合った。
「おはよう」
挨拶を返して、ふと気付く。
「ねえ、君の名前ってなに?」
すると、少女は傍目にも分かるほど顔を顰めた。
「あんた、人に名前を聞くときはまず自分から名乗るってこと知ってるか?」
「一般常識位は、知っている」
「じゃあ、あんたから名乗るんだな」
肩を竦めた少女に名前を言おうとして・・・・・・言えなかった。
「言えない・・・・・・」
「なんだそれ。じゃあ、あたしの名前も言わない」
話を打ち切ろうとする少女に、首を振る。
「違う、それは違うんだ」
「何が違うっていうんだ。あんたは名乗らなかった、だからあたしも名乗らない。一般常識位知ってるんだろ?」
「そうじゃない。違うんだ」
「だから、何が違うっていうんだよ!」
少女は声を荒らげた。その目を真っ直ぐ見つめて、ボクは言った。
「ボクには、名前が無い。だから、名乗らないんじゃなくて、名乗れないんだ」
少女は、目を瞠った。
「またまた、ご冗談を・・・・・・」
「ボクが冗談を言ってるように思えるか?」
茶化すような少女の言葉を遮って、言う。
少女は黙り込むと、ボクを睨みつけて「思えん」と唸った。
しばらく、二人とも口を開かなかった。
重苦しい沈黙が被さる。
やがて、少女はぼそりと言った。
「・・・・・・シロ」
「え・・・・・・?」
「あんたの名前だ」
少女は吐き捨てるように素っ気無く言った。
シロ。と口の中で、繰り返す。
「何で、シロ?」
「それがあんたに一番ぴったりだからだ。服も、髪も、全部真っ白だからな」
言われて始めて知った。ボクは白ずくめの格好をしているのか。
「何だよ、何か文句あんのか?」
何故か少女が凄んでくる。
「ありがとう」
自然と感謝の言葉が口をついて出ていた。
「ありがとう。ボクに名前をつけてくれて、ありがとう」
「あーはいはい、どういたしまして」
重ねてお礼を言うと、遮るように少女が必要以上に声を張り上げる。
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