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ふと街灯が途絶えた。コンビニエンスストアの白い光ももう見えない。歩き続けた僕は札幌中心部に残されている原生林の山にたどり着いたようだった。夜の闇の中、放射状に伸びた木の影は本当に黒い。それでも目が慣れてくると足元が見えてくる。笹が積もった雪の下から顔を覗かせていた。年老いた木の太い枝は、その背で重くのしかかった雪をしっかりと支えている。葉を落とした森の樹冠にはぽっかりと隙間が空いている。星が強く輝いていた。森の隙間は街中よりもはっきりとたくさんの光を灯していた。強く光る星のそばに、小さな星が散らばっていて、まるで空全体の光量が増えたような錯覚を起こしていた。星はずっとそこで輝き続けているのだ。見えていなかっただけなのに、僕はそこに星がないものだと勝手に思い込んでいた。東京の空にない星が、北海道の空に浮かんでいる訳ではない。僕は星が好きではないが、それでもその時は、
「きれいだ」
と思った。もしかしたらその感情は言葉として口から出ていたかもしれない。誰に向けた訳ではないが、強いて言えば森の上に広がる夜空に向かって、僕は呟いたのかもしれない。
しばらく星を見ていた僕は、近くに神社があることを思い出し、ここまで来たついでに初詣に向かうこととした。神様に自分の夢を叶えてもらうつもりはないが、せめて、努力するだけの時間がありますように祈ってみよう。温かい甘酒でも飲みながら、寒さに強張る肩の力を少し抜いて、また、歩いて家に帰ろう。
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