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約束のない夜。新月の空は墨色。無秩序に見える星の並び。どんなに目を凝らしても、僕にはオリオン座しか分からなかった。暗い天井に点々と輝く星々は道を照らすには心許ないただの灯りで、綺麗だとは思うけれど、スマートフォンを取り出してその感情を言葉にしたいと思うほどのものではない。歩いても歩いても変わらぬ位置で、潤んだ瞳のような光が散らついている。
文字通り忙殺されていた師走も、年末は向こうから勝手にやってきて、強制的に休みとなった。残した仕事が多すぎて、何から手をつければいいのか分からないが、それを考えるのも正月休みが明けてからにしよう。そうやって何も考えずに新年を迎えられるのが、日本人の良いところであり、正月くらいしか思考を停止できないサラリーマンの馬鹿さの象徴なのかもしれないと思った。
寒い札幌のど真ん中に暮らし、働くことを選んだのは、冬の強烈な寒さが好きだからなのかもしれない。歩いて、歩いて、歩き続けている内に冷えてきて、身体中の筋肉が強張ってきた。がちがちに固まった肩が痛くなる。それでも冬の寒さが好きだった。何故なのかは分からない。運命の人と出会ったことはなけれど、毎年、冬になれば雪雲がやってきて、どこまでも寒くなり、僕たちを苦しめる。当たり前のことが毎年当たり前に来てくれる。好きだったのかもしれない。僕は年の瀬を歩く。肩を強張らせ、それでも、来年に向かって歩く。
どんなにせっせと働いても、人のミスの尻を拭っても、本質的に認めてくれる人はいない。お互いを傷つけ合って、傷から出た甘い汁を飲んで生きているような社会。大人になったら、知らず知らずの内にその中で生きていた。抗うことを忘れ、毎月の給料を何よりも大事に掴んで離さず、嫌なことをするのが美徳のように語られる世界のど真ん中に僕はいる。どんな言い訳をしても、他人や社会や親のせいにしたくはなかった。自分自身で今の自分を選んでいるのだ。例えば、昔、歌手になりたいと思ったことがあるが、歌手になろうとしなかった自分のせいで自分は今歌手になれていないのだ。「君と私は同族だ」とでも言いたいのか、最初から叶えるつもりのない夢を、自分で諦めたかのように語る友人が僕は嫌いだった。
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