0人が本棚に入れています
本棚に追加
雪で幅員の狭まった車道の脇、ナトリウム灯のオレンジ色は点々と続く。犬も歩けば棒にあたるくらいの間隔でローソンの白い光がある。歩く。歩く。どこまでも歩く。どこかこの日常が果てるところに向かって。もうきっと来年はすぐそこに来ている。もしかしたらもう「来年」は今年になってしまっているのかもしれない。それでも僕は歩く。滑らないように足元を確かめながら、ゆっくりと。信号もない住宅街の小さな通りにも、初詣に向かう男女の姿が増えてきた。ただ歩きたいから歩いている、というほど若くはない。逃げるために歩くほどの元気はない。寒さが好きだから歩くのだ。それを忘れちゃいけないんだ。
仕事が忙しいと、自分の夢や好きだったものが霞んで見えることがある。一時的に好きな映画や好きな本の内容が思い出せなくなったり、音楽を聞き流すようになったり、友達と会わなくなったり、いい大人になった自分には諦めこそが美徳なのだと勘違いしたりする。少年漫画で嫌というほど教わった、努力・友情・勝利の鉄則を忘れてしまうのだ。敗北を知り、友人を心から信じることができなくなって、ついには努力することを恐れるようになる。
北海道の大学を出て、故郷の東京に戻るか、それとも札幌に残るか、迷った時に札幌を選んだ理由は冬の寒さだった。東京に比べて、冬、ただ生活することすら大変な北海道に、僕は残りたいと強く思った。自分の意思で努力することを恐れるようになりたくないと確かに思った。冬が来れば、僕は寒さに打ちのめされる。一年目の冬は寒すぎて夜眠ることも辛かった。二年目には朝起きれるようになって、大学の授業に遅れないようになった。毎年、少しずつ僕の体は寒さに強くなっていく。それでも全身を強張らせるこの寒さに打ち勝つことはできないのだ。どう頑張っても寒い。寒くて、寒くて、寒すぎる。除雪で積み上げられた雪は、三メートルを優に超え、ほとんど消えかけた歩道を歩く僕を見下ろしている。
最初のコメントを投稿しよう!