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あの時起こった現象は、今ではあの惑星に備わった防御機構のようなものだと判明していた。更なる調査と犠牲によって、それは幻覚を見せる類の免疫なのだと判断されていた。人間は星から資源を奪っていく存在だから免疫が働くのだ、と。ダイヤの塊かもしれないと言った中原の顔は、今も焼き付いて離れなかった。
「……星の出す免疫因子に感染した人間は、あの柱が愛しい人の墓標に見えるのだそうだ。私の感染が遅れた、或いは効かなかったのは、私が孤児だったからかもしれないと思っている。証明のしようもないが」
「そんなことが……。それで、出発前に薬を投与されたのですね」
「ああ」
調査は薬物投与により感染が予防できることをも暴き出していた。その事実を得るまでに払われた犠牲の数を、船員は強いて考えないようにした。
船長は口を噤み、ただ流れていく窓外の暗闇を眺め続けていた。船員にはかける言葉もない。幸いにも、ぽーん、と沈黙をかき消すような例のチャイムが鳴り、AIが今度は「着陸予測時刻まであと十分です。全クルーは定位置についてください」と読み上げた。
「いよいよか……緊張するな」
「……」
「では船長、俺は戻ります。お話、ありがとうございました。……俺、任務、頑張ります」
「ああ」
若い船員は部屋を出て行った。船長の視線の先には、漆黒の中にぽつんと浮かんで見える白い星があった。
「……帰ってきたよ。中原、皆」
そびえ立つ真っ白な柱の一本には、苦渋の表情が浮かんでいた。
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