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 ミーティングルームの空気は重苦しく、緊迫していた。前に立つ船長は顔を顰め、そしてその隣には保安部の二人に拘束された船員がいた。大声で泣き叫んでいる奴を、俺は知っている。 「調査部の神田だ」 「何か様子がおかしいぞ」  俺と中原がひそひそと言葉を交わしていると、船長が重々しい咳払いを一つして、 「神田の様子が突然おかしくなった。心当たりのある者はいないか」  と言い終わった瞬間、神田は拘束を振り解こうとひどく暴れ始めた。背後の二人が慌てて押さえ込むが、端から見ている俺にも分からないくらいの尋常ではない力だ。これはちょっとした異常事態だった。 「事前スクリーニング及び直前の精神保健検査と問診、昨日行った定期精神保健検査ではいずれも異常は見られませんでした」  もう一人、別の保安部の職員が言う。 「今朝も異常はありませんでした」 「普通に飯食って仕事始めてましたよ」  口々に上がる声に、俺はまた声と姿勢を低くして呟いた。 「こりゃあ普通じゃないな」 「ああ……何が、」  あっ、と声が上がり、俺ははじかれたように前を見た。 「ああ……あっ…………あ……」  相変わらず神田は泣き叫び続けているが、異変は保安部の二人に起きていた。突然神田を押さえ込むことを止めた腕をだらりと下げ、力の抜けた様子で宙を見つめている。かと思うと、ふらふらと歩き始めてミーティングルームを出て行ってしまった。俺達は訳も分からず辺りを見回して、そして一人、また一人と立ち上がるのをただ眺めることしかできなかった。  皆、同じ方向へと向かっている。--船外への、エアロックの方だ。
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