内線鳴らします

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 今日の営業は散々だった。あれほど力を入れていたY富の案件も、上手いこと相手のペースに巻き込まれてしまい、再度見積を出すことになってしまった。 (くそう)  それも楠本の意味深発言の所為だ。何が大変なのかざっくりで良いから教えとけよ。教えられないならそもそも言うなよ。気になって仕事が手に付かなかったじゃねぇか。 「お疲れ様でーす」  営業部屋に戻れば、まだパラパラと営業(セールス)の姿があった。俺はホワイトボードを消し、背もたれを鳴らしてぐったりと自分の椅子に腰掛ける。鞄を開け、クリアファイルを取り出したところでプルルと内線が鳴った。 「はい、杉山です」 『お疲れ様です、杉山さん。経理の楠本です』  壁面の時計に視線をやれば十九時五分を差している。 「お疲れ。まだ残ってたのか?」 『ええ。杉山さんが十九時戻りと仰っていたので。もう二階は誰も残ってません』 「俺を待ってたのか?」  するっと口から出た台詞にドキリとした。馬鹿か、俺は。 『ええ。お待ちしてました』 「……」  淡々とした楠本の声が胸に響く。 『そちらはまだ人がいるでしょうから、良かったら二階へ来てくれませんか?』 「……分かった。すぐ行く」  受話器を置いて、大きく息を吐いた。  ――大変なことになりまして。  今朝の話の続きか。一体何だっていうんだ。
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