内線鳴らします

13/17
前へ
/17ページ
次へ
(I川で最初の見積出して、十時半からY富だな)  腕時計を見ながら早足で入り口に向かう。 「杉山さんっ!」  振り返ると楠本が階段を駆け下りてくるところだった。 「楠本? どした? 昨日はちゃんと傘買えたか?」  俺は立ち止まり、楠本が来るのを待った。  ふうふうと息を切らした楠本は俺の正面に立ち止まると、いつもの眉の吊り上がった眼鏡顔で見上げてきた。走ってきた所為か頬が少し赤い。 「おかげで傘も買えて、濡れずに済みました」 「良かったな」  俺はニヤリと口角を上げて、片足に体重を掛けた。つんつんとしたとげとげしい言葉遣いが寧ろ面白い。 (素直に礼も言えねぇとは、捻くれてるなぁ) 「杉山さん、何か笑ってませんか?」 「そんなことねぇよ」  ニヤニヤと笑いたい気持ちを堪えて次の言葉を待つ。楠本はむすっと唇を尖らせ、眼鏡のブリッジを押し上げた。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

230人が本棚に入れています
本棚に追加