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(I川で最初の見積出して、十時半からY富だな)
腕時計を見ながら早足で入り口に向かう。
「杉山さんっ!」
振り返ると楠本が階段を駆け下りてくるところだった。
「楠本? どした? 昨日はちゃんと傘買えたか?」
俺は立ち止まり、楠本が来るのを待った。
ふうふうと息を切らした楠本は俺の正面に立ち止まると、いつもの眉の吊り上がった眼鏡顔で見上げてきた。走ってきた所為か頬が少し赤い。
「おかげで傘も買えて、濡れずに済みました」
「良かったな」
俺はニヤリと口角を上げて、片足に体重を掛けた。つんつんとしたとげとげしい言葉遣いが寧ろ面白い。
(素直に礼も言えねぇとは、捻くれてるなぁ)
「杉山さん、何か笑ってませんか?」
「そんなことねぇよ」
ニヤニヤと笑いたい気持ちを堪えて次の言葉を待つ。楠本はむすっと唇を尖らせ、眼鏡のブリッジを押し上げた。
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