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「濡れずには済んだのですが……」
「?」
「……大変なことになりまして」
「大変なこと?」
「ご報告を」
俺はゴクリと唾を呑む。濡れずに帰ったっていうのに、何があったって言うんだ?
楠本は落ちてきた髪を耳に掛けた。
「杉山さん、今日は何時戻りですか?」
「え、ああ。十九時戻りの予定」
「分かりました。では行ってらっしゃい」
「は? え? 何?」
楠本はくるりと踵を返して階段に戻っていった。
「おい、楠本っ」
俺はその場に一人残される。
――大変なことになりまして。
耳の奥で楠本の声が繰り返された。くっそ、何があったって言うんだよ。
俺はバリバリと髪を掻き毟り、入り口へ向かった。
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