キグルイキグルミ

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キグルイキグルミ

 ある日タヨコは、殺されると言った。刃物で刻まれ、殺される、目の色変えてそう言って、それからたくさんの服を着始めた。 「着ないよりもましだもの、肌を見せなきゃ刃物も少しは通らない」 そんなタヨコを着ぐるみのようだ、わたしは思った。不恰好に着ぶくれて、頭にはニット帽をかぶって、見えるのはタヨコの目元だけ。タヨコとわかるのは目元だけ。  タヨコはまるで着ぐるみだ。あわれに狂った着ぐるみだ、そしてわたしの親友だった。  それから、もう何年も経つ。  わたしはタヨコの顔を見ていない。タヨコの目元しか見ていない。さて、タヨコはどんな顔だったろう、わたしは最近不思議に思う。  声はこもってわからない、そもそも着ぐるみのタヨコは暑いのか、あまりわたしと話さなくなった。  タヨコが誰だかわからない。わたしは成長し大人になった、タヨコはどんな大人になったろう、そばにいるのに見当つかず。  わたしはタヨコをじっと見る。哀れで狂った着ぐるみを見る。タヨコはこの着ぐるみだ。さて、果たしてそうだろうか?  最近、わたしは不安になる。着ぐるみのタヨコはとうに死んで、ここにいるのはただの着ぐるみ。着ぐるみのタヨコのふりをした化け物じゃないか、そんな不安に襲われる。  そもそも、タヨコなどいなかったのでは、そんな風にも思われる。  タヨコの顔を見ていない、目元は少し形が変わった。年を経て、変わっていった、本当に?  そこの着ぐるみが服を脱ぐ、その一瞬を待っている。  それが哀れなタヨコであること、願いながらわたしは待っている。  でなきゃ、ずたずたにひきさかなければ。  わたしはタヨコを待っている。  化け物退治の包丁持って、ずっと静かに待っている。
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