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「姫様、そのくらいにされませんとお身体に障ります」 糸姫に仕えている伊之介は心にもない形式的な言葉を発した。 「織田軍の先鋒の清水勢はもうそこまできておるんじゃぞ、身体が疼く…ではなかった。腕がなるというもんじゃ」 「お戯れを。既にお殿様のご意向で奥方様も飯島様のお世話になっております。姫様も一刻も早くお逃げください」 糸姫は伊之介の言葉を無視し、持っていた薙刀を振り上げると巻藁を真っ二つに切り落とした。 「父上は死ぬおつもりじゃな」 伊之介はひざまずき、ただ頭を垂れていた。 「先の合戦で破られた身鷹の谷は早島城、守りの要衝地、そこを越えられたのでは、こんな小城はひとたまりもないであろう」 「ですから姫様も早く…」 「ええいもう言うな。父上と一緒にここで死ぬ。もちろん、その前に…」 糸姫は身鷹の谷の方を眺めながら、にやついた。 「その前にとは、何でござりまするか?」 伊之介は問うた。 「ホホホ、何でもない、何でもないぞ」
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