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出会い
その赤子は耳障りなほど大きな声でただ、泣いていた・・・。
その泣く赤子は衣服を身につけておらず、その小さく弱々しい体には襤褸(ぼろ)の着れ屑が悲しいほど丁寧に巻かれていた。
その襤褸の着れ屑以外、何も赤子を暖めてくれる物はない。
それも今日で師走(しわす)も終わろうかと言う寒空の下でのことだ。
赤子がそこに捨て置かれてもう半刻(はんとき。※昔で言う一時間)以上が経った。
いつの間にか降りだした雪はうっすらと大地を覆っていた。
赤子の吐く息は白く、襤褸の着れ屑から僅かに覗いたその小さな手は痛々しいほど赤くなっていた。
このまま放って置けばこの人間の赤子は幾ばかりも生きられまい・・・。
いや、その小さな命が尽き果てる前にこの赤子は狼の餌食となってしまうだろう。
遠くから聞こえていた狼の鳴き声はついそこから聞こえてくる。
深い闇の中に立ち並ぶ木々の合間からはキラキラと輝くものが数十ほど見えてきていた。
そして、そのキラキラと輝くものは必ず対をなして動いていた。
僅かに赤子の泣く声が小さくなった。
それは己の身に危険を感じてのことなのか、それともその小さな命が尽き果てようとしてのことかはただの傍観者の彼にはわからなかった。
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