雪と侍

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「・・・名を・・・雪と言ったな」 男の問いに雪は溢れ続ける涙を拭い、小さく頷いた。 『雪』と言う名は恐らく、雨月より賜ったものだ。 産まれてすぐに捨てられた自分に今の名前以外に名前があったとは思えない。 何より、雪のこと雨月が『雪』と呼んだその時から雪は『雪』と言う存在になった。 そして、この世界に存在することを許されたのだ。 それは命と同等かそれ以上の価値があると雪は了解していた。 「雪。お前は紛うことなき人間だ。それは俺が保証する」 男はそう言い切ると雪の頭を優しく撫で付けた。 ほんのりと温かい男のその手がなぜだか雪には悲しく感じられ、まだ幼い雪の心をさわさわと落ち着かなくさせた。
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