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抱き上げた赤子は驚くほど軽く、その小さな顔も小さな耳も小さな手も真っ赤になり襤褸の着れ屑は涙と雪に濡れて湿っていた。
夏物の薄く汚い襤褸の着れ屑・・・。
その襤褸の着れ屑は本当に悲しくなるほど丁寧に赤子の惨めな体を包んでいた。
人間は愚かで浅ましく、罪深な生き物だ。
その証拠がこの薄く汚い襤褸の着れ屑だ。
我が子を捨て、己を生かす。
赤子を山中に捨て置けば獣の餌食となるだろう。
ましてや今は師走の終わりの夜。
例え獣が居なくとも産まれて間もない赤子は一晩と言えどもこの寒空の下、生きて朝は迎えられまい。
なのに、その赤子に薄く汚い襤褸の着れ屑をこれほど丁寧に巻くのは少しでも己の罪を軽くし、その罪悪感から僅かでも逃れようとしてのことだろうと彼は解釈をした。
抱き上げられた赤子は泣くのを止め、彼の顔を不思議そうに見つめていた。
赤子に見つめられた彼は僅かに目を細め、その場を静かに立ち去った。
師走の夜が睦月へと替わった頃の出来事だ。
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