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「水の流れ以外に何か見えたか?」
雨月の問いに雪はコクリと頷き、雪解け水の流れを幼い指でやんわりと指差した。
「光が見えます。キラキラとしていてとても綺麗なんです」
「・・・そうか」
雪の答えに雨月は微笑み、光を放つ小さな水の流れを注視した。
確かに小さな水の流れは春先の暖かな日差しを弾き、キラキラと輝いていて綺麗ではあったが、それを半刻近くも見ていられるかと聞かれると雨月は首を傾げてしまう。
「あの・・・僕は何かいけないことをしていたのでしょうか?」
困惑を含む雪の声音に雨月は苦笑しつつ小首を振り、その場に屈み込んで雪の顔をそっと覗き込んだ。
雪のその大きな黒い瞳に雨月の顔がぼんやりと映り込む。
妖である雨月の容姿は人間のそれとそう変わりはなく、すぐに妖だとばれることはない。
ただ、妖は妖でしかなく、いくら人間の体(てい)を取り繕っても妖は人間にはなり得ない。
それは雨月とて例外ではなく、それが世の理と言うものだ。
雨月の目は僅かに紫色を帯び、その瞳孔は猫や蛇のものによく似ている。
雨月はそれ以外、表だって人間と違うところがわからない妖だった。
だが、それもあくまでも人が目にすることのできる範囲の話なのだけれど・・・。
「雪は何も悪いことなどしておらぬ。私の物言いが悪かっただけのこと。気にするでない」
雨月の言葉に雪は生真面目な顔で頷き、小恥ずかしげにはにかんだ。
雨月はそんな雪を軽々と抱き上げ、ゆっくりと辺りを見回した。
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