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「二度と、私の前に現れるな」
俺の喉元に剣先をぴたりと据えて、【奴】はそう言った。抵抗しようにも、武器はこいつに叩き落とされ、地面に無様に転がっている。
「貴様を見ていると反吐が出そうになる」
「……何でそんなに、俺を目の敵にするんだ」
お前の幼少期を知っているからか。
そう口にした瞬間、剣の腹でしたたか頬を打ちすえられて、俺はその場にくずおれた。口の中に鉄の味が広がっていく。歯が何本かかけた感触がした。
「か弱い【人間】風情がうぬぼれるな」
冷たい声が突き刺さる。痛む頬を押さえながら顔を上げると、燃えるような橙色の瞳と目が合った。濃く煮出した紅茶のような色をした髪が、抜けるような青空の下、陽の光を浴びて王冠のようにきらきら輝いている。
「貴様といると、伝染る気がして嫌なのさ。己をひ弱にする、嫌な【人間】の癖がな」
以前にも、似たようなことを言われたな。口元の血を拭いながら、ぼんやりそんなことを思う。
「……人をバイキンみたいに言うんじゃねえ」
「フン。似たようなものじゃないか」
鼻で笑って、奴は踵を返した。軍靴につけられた鈴がチリンと音をたてる。俺がとり落とした剣をこれみよがしに踏みつけながら、そいつは高らかに言った。
「貴様なんぞいなくとも、私の編成した精鋭軍は最強だ。つまらん人間どもの戦場など、たやすく蹂躙してやるさ」
だから貴様は、おとなしく家に帰って寝ていろ。
悔しさで歯がガチガチと鳴った。今すぐ殴りかかりたかったが、散々痛めつけられた身体は言うことを聞かず、ただ地に突っ伏すしかない。
そうしている間にも、奴はどんどん遠くなっていく。
「くそ……」
ただ俺にできることは、地面に爪を立て、そいつの名前を呼ぶことだけだった。
「エラー・バグズ――!」
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