エラー

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「……なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ」  ぱんぱんに腫れ上がった頬をなで、俺はため息をついた。 「精鋭部隊からは外されるし、エラーには殴られるし、散々だ」  感染による症状自体は、軽い発熱が数日間続いただけですんだらしい。ただの風邪だと思い、しばらくウイルスの感染にも気づかなかったほどだったそうだ。感染が発覚した頃には、ウイルスはすっかり体内から排除されていた。  しかし、話はそれだけで終わらなかった。彼女はその時、たまたま妊娠していたのだ。そしてウイルスは、その胎児の中にも入り込んでいた。  生まれてきた子を目の当たりにして、彼女は度肝を抜かれた。それは、人とは似ても似つかない生き物。まるで争い闘うために生まれてきたかのような、筋肉の塊だったのだ。 「全く君も災難だったねえ、デバッグ准尉。あのエラー・バグズにしたたか殴られるなんてさ」  俺の頬にガーゼを当てながら、同僚のシイはくすくすと笑った。 「聞いたよ。エラー・バグズの采配で、遠征部隊から外されたんだって? それで文句を言いに行ったら、返り討ちにあったって」 「うるせえ」  シイは、軍の研究所で働いている科学者だ。遺伝生物学が専門分野で、その技術と知識を活かして兵士の健康管理や後方支援を行っている。 「これに懲りて、気安くあれに話しかけるのはやめた方がいいよ。危ないから。これでも多分、手加減してくれたんだと思う。本気で殴っていたら頭が飛んでいたかも」  なにせ相手は、あのエラー・バグズなんだからね。  諭すように言われたが、とても首を縦に振る気にはなれなかった。 「おかしい。ガキの頃はあんなにひ弱だったのに」  女性は、我が子を遺伝子解析にかけた。そしてその結果、衝撃の事実が明らかとなった。ウイルスが持っていた遺伝子の一部が、彼女の子どものゲノムに挿入されていたのだ。
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