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彼は、まだ蕾のままの桜の木の下に私を呼び出した。いつもの笑顔のまま。いつもの調子で、たわいもなく――。
「ねえ、ほしのたまごって知ってる?」
私はずっと俯いていて、彼の顔を見れなかった。もっとも、彼も私に背を向けていたのだが。
「ほしのたまごは卵形のカプセルに羽根が生えたようなものなんだって。そのほしのたまごは空にあってね、夜の星に紛れて瞬いてるんだ」
ああ、なぜこの人はこんなにも自然体なのだろう。気を抜いたら、泣いてしまいそうだ。
「ほしのたまごが瞬く夜に願い事を唱えるとね、一番気持ちが強い人のところへ飛んでいって願いを叶えてくれるんだよ」
私はきっと、情けない顔をしていたのだろう。スッと目の前に彼の気配を感じて、顔を上げた。
すると彼はふわりと微笑んでいた。彼は私の肩に手を置いて、言い聞かせるように言った。
「会いたいって強く願えば、また会えるよ。きっと、ほしのたまごが、叶えてくれるんだ」
私は、ついに泣き出した。その優しげな声に、こらえきれずに。その日ほど、先輩と長く過ごしたことはなかった。
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