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あれから数ヵ月が経った。私は高校2年生になり、先輩とも連絡は取り合っていない。現実ってこんなもの。結局、先輩への気持ちはなんだったのか。しかし、私の中では確実に甘酸っぱい思い出になろうとしていた。
電話の呼び出し音が鳴ったのは、そんな時だった。
「――はい」
「………………」
「……あの、どちら様でしょうか………?」
緊張を覚えて、受話器を握る手に力が入る。いたずら電話?あと10秒経ったら切ろうか。
「………お久しぶりです、大西です」
それは、先輩の母親の声だった。先輩の母親には何度か会ったことがある。しかし先輩が卒業してからというもの、当然先輩の母親とも話す機会はなかった。私の声は驚きで大きくなっていた。
「お久しぶりです…!どうしたんですか!?」
しかし、電話の向こうでは雑音が聞こえるだけだ。
「………?」
不思議に思い始めた頃、やっと「今朝」という単語が聞き取れた。そしてほどなくして、それは伝えられた。
「今朝、圭、が、亡くなりました………」
「――!?」
身体中を衝撃が巡る。聞こえたはずのその言葉を理解するのは、容易くなかった。それなのに、次の言葉は耳に入ってくる。
「昨日の夜、容態が急変して…………そのまま………」
「容態って、なんですか………?」
理解するより先に口にしていた。言葉がつまった音が聞こえる。しばらくの沈黙のあと、「そう、あの子、言ってなかったのね…………」と静かに呟いた。
「圭はね、生まれつき重い心臓病を患っていたの。卒業後はN大学附属病院で治療に専念してたんだけど、あなたには、知られたくなかったのかもしれないわね………」
――N大学。
――先輩は、すべて知っていて――。
電話越しに嗚咽が聞こえる。私は受話器を持ったまま、一歩も動けなかった。
*****
黒い人の群れが並ぶ。その先には、彼の笑う写真がある。
すべてに現実味がなかった。彼がいなくなった実感もなかった。私は、悲しくもなく、寂しくもなく、不思議な心地だった。
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