第1章

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すっと空気が変わった気がした。どうやら、出口が見えたようだ。 「その子どもの鎮魂のために建てられたのが、この神社よ」 木の群れを抜けた先には、社があった。その目と鼻の先には真っ赤な鳥居。目を凝らして見ると、鳥居の真ん中上部には「子宝神社」と書いてある。 「『子宝』と書いて『しほう』と読むのも、その生け贄だった子が『しほ』という名前だったから、と言われているのよ…」 ふっと不思議な感覚に陥った。あれ、私、その話をどこかで聞いたことがある? 「ちょっと、お茶しようか。駅前に『夏風』っていういい喫茶店があるのよ」 駅前。喫茶店。『夏風』。私、そのシチュエーションをどこかで…。 そう考えている間に、彼女は鳥居をくぐりその向こうの石段を降りていく。私は、違和感を抱えたまま彼女の背中を追った。 彼女に案内されたのは、赤塚駅という駅前の喫茶店だった。私はこの駅に来たことはないし、その駅前の風景に見覚えはない。けれど、私はこの町を知っている。ここは―― ここは、先輩が生まれ育った町だ――。 喫茶店は、落ち着いた照明のアットホームな雰囲気の店だった。こうしたこぢんまりとした店はお年寄りが好きなイメージだが、駅前にあることもあり、若い人も多く立ち寄るのだという。 出入口から入ってすぐの端にある、駐車場の見える席に座った。彼女はココアを、私はレモンティーを頼む。彼女は頬杖をつきながら、 「私、金森萌。城東中学の1年生なの。よろしくね」 なんて笑顔で言う。 「私、は……真田菜摘……」 彼女の距離感のなさに圧倒される気持ちをグッとこらえて答える。 「ふーん。高校生?見たことない制服ね?」 その言葉にギクリとした。赤塚町は同じ県内にあると言えども、場所からすればだいぶ遠い。疑問を持っても不思議はないのである。
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