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この世界には端っこがあるらしい。その端っこはずっとずっと北にあるらしい。そこには聖なる盃があり、それに入った水を飲むと神になる資格を得られると言う。
チチチ…鳥の鳴き声…ザァザワァ…木々のせせらぎ…バチャバチャ…水の落ちる音…
目が覚めると頬には一筋の涙が伝っていた。
「なんで泣いてるんだ。」
ここはインベル王国領土の西の外れにある、イルム村。この村の名産のイルムワインは王都の領王に献上するほど上質で美味い。
---「ベイルー。居るかー。」
小屋の外から呼ぶ声がする。涙を拭きつつその声に答える。
「いるよー。」
「ベイル。朝からすまねえがちょっと手を貸してくれねえか。」
手を貸してくれ。どういうことかだいたい予想はつく。
魔物だ。
インベル王国は人間が支配、統治しているとはいえ動物もいれば魔物もいる。だから時折魔物や凶暴な獣が、村や町の周辺に現れる。すると自分達、魔征騎士の出番だ。
着替えをしながら小屋の扉越しに会話を続ける。
「何が出たんだい。」
「それが大物らしくてな。」
着替えが終わりひとまず常にベッドに立て掛けてあるブロードソードを持って小屋の扉を開く。
「大物。」
少々訝しんだ様子で尋ねる。
「ああ、大物だ。村の東の方でエリーザが見たらしいんだが、咲いてるスカイブロッサムよりも頭一つ分デカいらしい。」(スカイブロッサムは一般的に地上から約2㍍地点に花を咲かせる)
「それは大きいな。で、種族は。」
「トロルだ。」
「トロルか。数は。」
「どうやら一体だけらしい。」
トロル、体が大きく非常に力強い種族で人間程度なら握り潰せる。群れる事は少ない。動きも遅いというわけではなく、走るし跳ねる。非常に厄介な魔物だ。
「よし、東の方にトロルだな。わかった。」
そう言って一度小屋に戻り準備を整える。魔物の中には瘴気を放つモノもいるから煙薬は欠かせない。当然戦闘になる訳だから鎧を身に纏う。武器もブロードソードの他に、騎士一人一人に与えられる術式刻印を施した剣も持つ。
準備は整った。ワイバーン鱗皮でできた外套を鎧の上から羽織る。
「じゃあ狩ってくる。」
そう言って村のはずれの東の森に入っていく
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