第3章「止まった時間」

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俺は抱きつかれていた。 あまりにも突然で、頭が真っ白になり、鼓動が速くなる。 どうしていいかわからず、霧島は彼女の背に手を回した。 抱き締めながら、彼女はただ質問を続ける。 「どうして、いなくなったの? どうして、私を1人にしたの? どうして、連絡も何もしてくれなかったの?」 「連絡しなかったのは、本当に悪いと思ってる、ごめん」 「私ね、蓮くんがいなくなってからずっと1人だった。中学校に入って友達も増えたよ?でも、心の中はいつも1人。あの日から、私の時間は止まったの。」 「…俺も、あの日から時間は止まってる。ひたすら現実から目をそらして周りを拒絶した。別に何があったってわけじゃないんだけどさ、ただ新しい環境に慣れなかったのかな」 言い終わって、彼は気づく。 初めて、香奈に嘘を付いた。 その事に気付く様子もなく桜井は言う。 「じゃあ、お互いに止まったままだね」 「そうだな」 「うん」 抱き付いた格好から1歩後ろに下がり恥ずかし気にケータイを取り出した。 「ケータイ、返すよ」 「おう、ありがとな」 「どういたしましてー」 いつものように笑ってそう言った。 その紅く染まった頬は、恥ずかしさ故か、それとも夕陽の仕業なのだろうか。
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