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俺は抱きつかれていた。
あまりにも突然で、頭が真っ白になり、鼓動が速くなる。
どうしていいかわからず、霧島は彼女の背に手を回した。
抱き締めながら、彼女はただ質問を続ける。
「どうして、いなくなったの?
どうして、私を1人にしたの?
どうして、連絡も何もしてくれなかったの?」
「連絡しなかったのは、本当に悪いと思ってる、ごめん」
「私ね、蓮くんがいなくなってからずっと1人だった。中学校に入って友達も増えたよ?でも、心の中はいつも1人。あの日から、私の時間は止まったの。」
「…俺も、あの日から時間は止まってる。ひたすら現実から目をそらして周りを拒絶した。別に何があったってわけじゃないんだけどさ、ただ新しい環境に慣れなかったのかな」
言い終わって、彼は気づく。
初めて、香奈に嘘を付いた。
その事に気付く様子もなく桜井は言う。
「じゃあ、お互いに止まったままだね」
「そうだな」
「うん」
抱き付いた格好から1歩後ろに下がり恥ずかし気にケータイを取り出した。
「ケータイ、返すよ」
「おう、ありがとな」
「どういたしましてー」
いつものように笑ってそう言った。
その紅く染まった頬は、恥ずかしさ故か、それとも夕陽の仕業なのだろうか。
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