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ちょっと歩いた限り、人は見当たらない。
不法投棄にはもってこいだ。
日の暮れかけた遊歩道を横切り、兵馬は雑木林を目指す。
(誰もいないよな?)
視線を感じる。
首を動かす兵馬は不審者じみているが、それを咎める者はいない。
視界に映る人影はない。
兵馬は周囲を気にしつつ、雑木林に身を滑らせた。
(やっぱ、スコップとかあった方がよかったか?)
目立つだろうと思った為、持ってこなかったのだが。
だが、別に犯罪ではあるまい。
死体はネズミもどき、然るべき機関で調べれば新種として扱われそうな異形だ。
兵馬は靴で軽く穴を掘り、鞄の口を開け、ネズミの死体を放り出した。
――よし帰ろう!
死体が見つかろうが、見つかるまいが問題ない。
自分との関りが漏れなければいいのだ。
兵馬が踵を返したその時、視界の隅に光るものが映った。
それは次々と増えていき、兵馬を取り囲む。ネズミの群れだった。
周囲に視線を走らせるうち、足元に走りこむ一匹が見えた。
それを潰す。
兵馬としては軽く蹴った程度だったのだが、込められた力はそれで済まない。
水枕を踏んだような感触の後、貫いたネズミの身体から黒く濁った血液が染み出す。
「うぅわ!」
兵馬は驚いて飛びずさる。
15匹程度のネズミの集団も動きを止め、兵馬を30の目で見据える。
昆虫のような無機質さの中に、観察するような意図を感じ、兵馬は背筋を寒くした。
「何だよ!見てんじゃねぇよ!」
口の開いた鞄だけを抱え、公園から逃げ去る。
その後ろをネズミもどき達が追うが、彼らは雑木林から抜ける直前で止まった。
兵馬が走り去った方をしばらく見つめていたが、やがて林の奥に姿を消した。
「あー、気持ち悪い…」
あれだけのネズミに見つめられるなど経験したことがない。
――けどま、これも経験かな。
兵馬はすぐに気分を切り替え、心の棚にネズミもどきの映像をしまった。
不快だし、汚らしいが、一つ経験できた。
兵馬は驚きや達成感に飢えていた。
勉強の成績はとくに対策を取らなくても平均より上。
スポーツに関しては、帰宅部でありながら運動部レギュラーすら上回る。
おかげで運動部の顧問達からは、スカウトが引っ切りなしに来る。
おかげで、何をやっても面白くなかった。
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