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金曜日の午後11時、兵馬は松道をぶらぶらと歩いていた。
あれから数日経ち、その間に殺人が2件発生。
クラスでも一部の者は、今回の事件と桐雄の関連について囁き合う。
噂する生徒の傾向は、繊細な人物か好奇心の強い人物。
大半、特に危機感を抱いているわけでもなく、気にしていない。
――おっと、警官だ。
飲み屋が並ぶ路地からひょこっと顔を出す。
酔漢や水商売風の男女の間から、紺色の制服姿が見えた。
兵馬は松道から海塚地区に向かって駆けていく。
動かす足が軽く、兵馬は競輪選手並みの速度で走る。
通行人がびっくりしたように振り返るが、ぶつかることは無い。
走りに集中する度に、周囲の動きがゆっくりになっているのだが、兵馬は気づいていない。
海塚街園を抜け、四ノ宮学園を過ぎると、自由が丘地区に入る。
その時、兵馬を緊張感が捉えた。
小学校時代、孝則が太っちょに殴られて気を失った時のような、不吉な胸騒ぎ。
しばらく進むと、一人の少年が姿を現した。一重の目元に険があることを除けば、端正な顔立ち。恰好は大人しく、こんな時間に出歩く人間には見えない。
「あんたは…?」
「よう、優等生。こんな時間に出歩くと内申に響くぜ?」
一重まぶたの青年はちょっと困惑したようだ。
彼はすぐに平衡を取り戻し、口を開く。
「初対面の相手に優等生呼ばわりされる謂れはない」
「そっか。それで、何してんだよ?」
「…今、殺人鬼が帰ってきたとか噂されてるだろ?祖母が脅えていてな」
「優等生じゃねーか。おばーちゃん子とか、今時感心するわ」
一重まぶたは眉を顰める。
ちょっとふざけ過ぎたか、兵馬は表情を引き締めた。
「よかったら、手ェ組まねぇ?協力できると思うんだけど」
「なんだ、いきなり?」
一重まぶたは身を引いた。
不躾に頼み込んできた兵馬の態度に、不信感を覚えたのだ。
「俺の方も早めに解決してぇ~なって思っててさ。どうよ?ご同輩…」
「……」
「お前、最近周りでおかしなこと起きてねぇ?」
一重まぶたは身を翻して走り去った。
その走力は自動車並み。陸上の世界記録を今すぐ塗り替えられるだろう。
先ほどの緊張感とは違うが、青年は周囲の人間と違う雰囲気がしていた。
――同種。
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