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クラスメイトが鹿なら、自分と彼はライオン。
同じ武器を使い、同じ土俵にある存在。
そんな印象を抱く相手には、初めて出会った。
(おっと、ボケッとしてる場合じゃねぇ)
兵馬は特に意識せず、足の向くままに走る。
適当に走り、緊張感が強くなる方へ向かう。
そうするうち、兵馬は角地に建つ2階建ての前に来た。
立ち止まって外観に目を凝らすと、2階の窓が割られているのが目に入った。
隣と向かいの家の電気は点いていない。
――視線。
ガラスが割れ、影が飛んでくる。
兵馬は右足を引き、それを躱す。
影は兵馬の前で、ゆっくりと顔を上げた。
それはどうみても人間ではない。
しまりのない皮膚の、しわだらけの顔をした猿とも狼のような生き物。
鋭い爪を持ち、両肩から鋭い角が一対、隆起している。
眼窩には紅玉。昆虫のような、瞳の無い目で兵馬を見つめる。
そいつの口周りは、両目と同じくらい赤く汚れていた。
――敵だ。
兵馬が右の拳を振るう。
獣人は蛙のように跳ねて躱し、右側面に回り込む。
左腕の爪を、右上に振り上げた。
兵馬はそれに辛うじて反応し、回避行動に移ったが、衣服が裂けた。
右肩で痛みが生まれ、湿ったような肌触りがする。
獣人はそこで終わらない。
右腕を横薙ぎにし、左腕を掲げて飛び掛かる。
興奮した様子はなく、気味の悪い唸り声だけで吼えたりはしない。
兵馬はあえて前進し、獣人にしがみついた。
そして左腕をv字にし、首を締めあげる。
獣人は拘束から逃れようともがく。
思いのほか効き目があり、爪の狙いは定まらない。
上半身を左右に振って落とそうと試みたが、兵馬は伝承の子泣き爺のようにしがみつく。
右腕の爪が頭頂を掠めたが、兵馬は離さない。
しかし6秒経った頃。
「おぉ、くそ!!」
ついに兵馬は振り落とされた。
道路に転がされた兵馬は素早く起き上がり、襲撃に備える。
立ち上がった彼が見たのは、獣人の走り去る背中。
「待てゴラァ!!」
兵馬は一も二もなく追いかけた。
その速度は毎秒100m。
公道で今の彼を抜き去れるものは、まずいないだろう。
しかし、獣人はさらに早い。
みるみる距離が広がり、兵馬は1分で見失った。
「あー、逃げられた…」
兵馬は雑木林のそばにへたり込んだ。
ぼんやりと周囲を見渡してみるが、見覚えが無い。
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