第1章 悪夢の中へ

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 クラスメイトが鹿なら、自分と彼はライオン。 同じ武器を使い、同じ土俵にある存在。 そんな印象を抱く相手には、初めて出会った。 (おっと、ボケッとしてる場合じゃねぇ)  兵馬は特に意識せず、足の向くままに走る。 適当に走り、緊張感が強くなる方へ向かう。 そうするうち、兵馬は角地に建つ2階建ての前に来た。 立ち止まって外観に目を凝らすと、2階の窓が割られているのが目に入った。 隣と向かいの家の電気は点いていない。 ――視線。  ガラスが割れ、影が飛んでくる。 兵馬は右足を引き、それを躱す。 影は兵馬の前で、ゆっくりと顔を上げた。  それはどうみても人間ではない。 しまりのない皮膚の、しわだらけの顔をした猿とも狼のような生き物。 鋭い爪を持ち、両肩から鋭い角が一対、隆起している。 眼窩には紅玉。昆虫のような、瞳の無い目で兵馬を見つめる。 そいつの口周りは、両目と同じくらい赤く汚れていた。 ――敵だ。  兵馬が右の拳を振るう。 獣人は蛙のように跳ねて躱し、右側面に回り込む。 左腕の爪を、右上に振り上げた。 兵馬はそれに辛うじて反応し、回避行動に移ったが、衣服が裂けた。 右肩で痛みが生まれ、湿ったような肌触りがする。  獣人はそこで終わらない。 右腕を横薙ぎにし、左腕を掲げて飛び掛かる。 興奮した様子はなく、気味の悪い唸り声だけで吼えたりはしない。 兵馬はあえて前進し、獣人にしがみついた。 そして左腕をv字にし、首を締めあげる。  獣人は拘束から逃れようともがく。 思いのほか効き目があり、爪の狙いは定まらない。 上半身を左右に振って落とそうと試みたが、兵馬は伝承の子泣き爺のようにしがみつく。 右腕の爪が頭頂を掠めたが、兵馬は離さない。 しかし6秒経った頃。 「おぉ、くそ!!」  ついに兵馬は振り落とされた。 道路に転がされた兵馬は素早く起き上がり、襲撃に備える。 立ち上がった彼が見たのは、獣人の走り去る背中。 「待てゴラァ!!」  兵馬は一も二もなく追いかけた。 その速度は毎秒100m。 公道で今の彼を抜き去れるものは、まずいないだろう。 しかし、獣人はさらに早い。 みるみる距離が広がり、兵馬は1分で見失った。 「あー、逃げられた…」  兵馬は雑木林のそばにへたり込んだ。 ぼんやりと周囲を見渡してみるが、見覚えが無い。
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