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中部地方A県にある海塚市。
その北側、住宅が多く立ち並ぶ自由が丘地区の市立里見高校。
昼食時間中の2年の教室。
「和久井の様子がおかしい?どんな」
「ガリガリに痩せててさぁー。ね、葵?」
加賀兵馬(かがひょうま)は肯く一条葵(いちじょうあおい)を見ながら、カツサンドを齧った。
今週に入り、同じクラスの和久井が3日続けて欠席している。
その少し前から携帯に出ないことが多くなり、2日前の時点で全くの音信不通になったそうだ。葵と目の前の軽薄そうな男―神谷孝則(かみやたかのり)は近況を確認するべく、二人で彼の自宅を訪ねて行った。その際和久井の異様な姿を目撃したらしい。
「俺じゃなくて医者に相談しろよ」
「医者に連れてこうとすると暴れるんだって…」
「それで?」
面倒くさそうに兵馬は尋ねる。
いつも能天気そうにしている孝則が、顔を青くしている。
聞く限りではここまで深刻になるような話とも思えないし、自分に相談するくらいなら早く医者に連れていけ。
「一緒に来てくれない?で、もしもの時は―」
「病院まで引っ張ってけって?」
「ダメ?」
少し思案する素振りを見せてから、兵馬は承諾。
3人で授業後、和久井の家に向かう事に決まった。
和久井の家は学校から徒歩30分相当の場所にある。
年季を感じさせる一戸建て。呼び鈴を鳴らすと、本人が出てきた。
「おぉ、どうした」
「…!」
兵馬は言葉を失った。
久しぶりに見た和久井の顔は、記憶にある通りだ。
しかし、寝巻から除く首が、腕が、まるで枯れ枝の様になっている。
骨と皮ばかりになった手で旧友を招くその姿は、死体が起き上がったかのようだった。
「…お邪魔しま~す」
か細い声で孝則が言う。見るのは2度目だが、まったく慣れない。
居間に通された3人のもとに、ジュースや菓子を持ってきた和久井が歩いてくる。
テーブルにそれらを並べる和久井の姿を、兵馬はまじまじと眺める。
(どう切り出したものかな…)
兵馬はここに来るまでは、事態を軽く見ていた。
目の前の和久井は如何にも病人めいた状態で、平素の孝則に近い活動的な笑みを浮かべている。
そのあまりの落差に、兵馬は我知らず和久井から目を逸らす。
なるほど、孝則が不気味がるわけだ。
―病人扱いすると、機嫌が悪くなるそうだな。
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