第1章 悪夢の中へ

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 中部地方A県にある海塚市。 その北側、住宅が多く立ち並ぶ自由が丘地区の市立里見高校。 昼食時間中の2年の教室。 「和久井の様子がおかしい?どんな」 「ガリガリに痩せててさぁー。ね、葵?」  加賀兵馬(かがひょうま)は肯く一条葵(いちじょうあおい)を見ながら、カツサンドを齧った。 今週に入り、同じクラスの和久井が3日続けて欠席している。 その少し前から携帯に出ないことが多くなり、2日前の時点で全くの音信不通になったそうだ。葵と目の前の軽薄そうな男―神谷孝則(かみやたかのり)は近況を確認するべく、二人で彼の自宅を訪ねて行った。その際和久井の異様な姿を目撃したらしい。 「俺じゃなくて医者に相談しろよ」 「医者に連れてこうとすると暴れるんだって…」 「それで?」  面倒くさそうに兵馬は尋ねる。 いつも能天気そうにしている孝則が、顔を青くしている。 聞く限りではここまで深刻になるような話とも思えないし、自分に相談するくらいなら早く医者に連れていけ。 「一緒に来てくれない?で、もしもの時は―」 「病院まで引っ張ってけって?」 「ダメ?」  少し思案する素振りを見せてから、兵馬は承諾。 3人で授業後、和久井の家に向かう事に決まった。  和久井の家は学校から徒歩30分相当の場所にある。 年季を感じさせる一戸建て。呼び鈴を鳴らすと、本人が出てきた。 「おぉ、どうした」 「…!」  兵馬は言葉を失った。 久しぶりに見た和久井の顔は、記憶にある通りだ。 しかし、寝巻から除く首が、腕が、まるで枯れ枝の様になっている。 骨と皮ばかりになった手で旧友を招くその姿は、死体が起き上がったかのようだった。 「…お邪魔しま~す」  か細い声で孝則が言う。見るのは2度目だが、まったく慣れない。 居間に通された3人のもとに、ジュースや菓子を持ってきた和久井が歩いてくる。 テーブルにそれらを並べる和久井の姿を、兵馬はまじまじと眺める。 (どう切り出したものかな…)  兵馬はここに来るまでは、事態を軽く見ていた。 目の前の和久井は如何にも病人めいた状態で、平素の孝則に近い活動的な笑みを浮かべている。 そのあまりの落差に、兵馬は我知らず和久井から目を逸らす。 なるほど、孝則が不気味がるわけだ。 ―病人扱いすると、機嫌が悪くなるそうだな。
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