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兵馬は目線で二人を制すると、口を開いた。
「お前、最近休んでるけど、何して時間つぶしてんの?」
「おぉ、ゲームとかスマホ。本当はガッコ行きたいんだけど、親が家から出してくれなくてさー」
両親の苦肉の策であった。
病院に連れて行こうとすれば、流血沙汰になるほどの激しさで暴れる。
医者を自宅に招けば閉じ籠って部屋から出ない。
父親がドアを破ると、途端に喧嘩が始まる。
憔悴した両親は、息子を家に軟禁状態にして留め置いている。
「出席日数の計算はやっとけよ」
「そうなんだよな!俺も言ってんだけどさ~」
和久井は笑いながら、ジュースを手に取る。
口元に運ぼうとした刹那、グラスが手から滑り落ちた。
空中で傾き、寝巻とカーペットに染みを作った。
「あららー、もうー」
和久井は他人事のように呆れながら、雑巾を取りに立つ。
一部始終を見ていた兵馬は、心底うんざりした。
「なぁ」
「んー?」
「お前、先週あたり何してた?」
こぼしたジュースを拭いた和久井は、兵馬の顔を見たまま硬直した。
生気が抜け落ちた顔は、病人を通り越し、死体を思わせる。
ややあって、その顔に生気が戻る。
「松道でデートしてた」
「デート? 」
孝則が葵に顔を向けると、彼女ははっきりと肯定した。
(ちゃんと喋っとけよ)
「その後は?」
「その後?」
意を決して兵馬は尋ねる。
暴れ始めたなら、即座に二人の前に出る。
飛び出す心構えを済ませ、答えを待つ。
「…姫が浦でカラオケ」
「で?」
「それだけだよ?」
「そうか」
それから当たり障りのない話をして、3人は和久井家を後にした。
話の中に彼の身に起こった以上の原因が隠されていたのかもしれないが、兵馬には分からなかった。
「おい、一条」
「なに?」
「お前、知っている事があるなら全部話せよ…」
兵馬は底冷えのするような声で葵に迫った。
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