第1章 悪夢の中へ

4/23
前へ
/179ページ
次へ
「…ゴメン」 「ヒョーマ、葵もテンパってたからさー」 「だから?それで地雷踏み抜いたら元も子もねぇだろ」  孝則の様子を見るに、彼にも話していなかったのではないか? 前回の見舞いの時の様子を尋ねると、孝則は居心地悪そうな表情を浮かべた。 「前ん時は、俺が怒らせちゃってさ…」 「話にならなかったって事か」  兵馬はため息を吐いて、孝則をまじまじと見つめる。 「俺こういう面倒臭いの嫌いだって知ってるだろ?」 「面倒臭いって、ひどい…」 「じゃ、帰るから。ちゃんとその女から情報絞っとけ。で、なんかあったら、連絡してくれ」  涙ぐむ葵を無視して、兵馬は帰った。 揉め事は嫌いではないし、興味を湧いた。 しかし、兵馬自身は和久井とそこまで親しい訳ではないし、救ってやろうという気にはならない。 「加賀くん冷たい…なんであんなの付き合ってるの?」 「え、まー、昔のよしみ?あれでも5年来の付き合いだからさー」  孝則は問いの答えに戸惑った。 距離を縮めれば愉快な部分はあるし、兵馬には個人的に恩がある。 しかし、性格が良いとはお世辞にも言えない。それだけが困りものだった。  2人と別れて帰った夜。 近所のコンビニに向かう途中の兵馬は、人気のない駐車場に連れていかれる男女を目撃した。 囲んでいるのは6名のチンピラ。兵馬は内心で舌なめずりをする。 買い物を一旦後に回し、駆け寄る。 手前にいたチンピラ目がけて、ハイキックをお見舞いした。 「なんだお前!?」 「ごみ掃除だ!死ね!」  蹴りを食らったチンピラは薙ぎ倒されたきり、動かなくなる。 高校生にもなると、喧嘩一つするのも一苦労だ。 兵馬は突っ張った男達に友情すら感じながら、思い切り拳を振るった。  日頃の息苦しさを晴らすように、鬱屈を乗せた拳を叩きつける。 早くて2年、遅くとも5年後には、自分も社会の歯車となるのだ。 こんな風に燥げるのは今の内だけ。諦めにも似た徒労感から顔を背け、兵馬は乱舞する。
/179ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加