第1章 悪夢の中へ

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 次の日の朝、授業前に兵馬と孝則は顔を突き合わせる。 葵はまだ登校していない。 「あの後、何かわかったか」 「和久井が話した以上の事は何も。でもさ、これ」  孝則はスマホを取り出し、動画を再生する。 0:10。場所は遊歩道。どこかの公園だろう、遠くに見える蛇口で子供が水を飲んでいる。 0:35。切羽詰まった声が流れてくる。子供も気づいたらしく、声の方に素早く顔を向けた。 0:39。子供が走り去った。画面が無人になる。 0:41。小型の猫くらいの四足動物が、画面を横切った。およそ16匹。そのうちの3匹が撮影者に気づいたらしく、カメラに向かって走り込んできた。  それは猫ではなかった。 丸い耳、長い尻尾、胴体と比較して小さな手足はネズミを思わせる。 動画が終わる直前、大写しになった顔は兵馬が知るネズミとは異なる。 無数の髭で覆われた口元は、頭足類に似ている。 1分足らずで、映像はそこで終わった。 「何だこれ」 「casebookであがってた。松道じゃないかって」 「一条には?」 「見せた」  予鈴が鳴り渡り、一日が始まる。 葵は始業直前、教室に滑り込んできた。 それを見た兵馬は内心、安堵した。 和久井は今日も学校を休んだ。 「考えたんだけどさー、寝ている間に縛っちゃったらどう?」 「さすがにひどくない、それは…」  1日を終え、3人は和久井家に向かった。 孝則は松道地区の調査を提案したが、兵馬が反対した。 「俺はどっちでもいいけど。でもあの身体だと暴れた拍子に、骨折れたりしそうだよな」 「マジ?」 「あのさ」 「ン?」  葵は躊躇いがちに口を開く。 他校の友達から連絡を受けた際、相手が興味深い先輩の話を出してきたのだ。 その生徒は1週間前から学校を休んでいたが昨日の晩、自室で亡くなったらしい。 彼の身体は痩せ細り、ミイラの様だったそうだ。 「部活の先輩らしいけど…」  孝則は不安になった。 薄々わかってはいたが、手をこまねいていると和久井も死ぬのでは? 兵馬もいい気分はしない。 死ぬとわかっていて、みすみす死なせたとあっては、眠りが悪くなってしまう。 「ねぇ、その子と話せない?」 「えぇ?…一応聞いてみる」  連絡を取り始めた葵を尻目に、兵馬は二つの事例について考えを巡らせていた。 二人の間には、共通点は無いか。それが解決のヒントになる…はず。
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