第1章 悪夢の中へ

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 後日、3人は葵の友人に話を聞きに行くことになった。 当の先輩の家は葬儀の準備で忙しく、またほぼ無関係の自分達が訪ねるのは憚られた。 「部活ってのは、同じ」 「うん、テニス部の先輩。結構女子から人気あって…」  聞き役に徹する孝則を尻目に、兵馬は小さくため息を吐く。 気の毒だとは思うが、死んだ他人の過去なんて興味ない。 孝則にまで害が及ぶ前に話が聞きたい。 早くしろ、の言葉を飲み込んで、話が進むのを待った。 「その先輩の行動、分かる範囲でいいから、教えてくれないかな?」 「うん…」  先輩の行動に特異な点は無かった。 部活に精を出しつつ、遊びも手を抜かない、普通の高校生の生活。 ただ、目を引く点が一つあった。 「窓?」 「うん、隅の方が割れてた」  先輩の自室の窓の一つの隅が割れていた。 丁度レンガブロックを投げ込んだように、小さな穴が開いていたのだ。 本人は指定されるまで、気が付かなかったらしい。 「あと、ベッドの周りが汚れてて」  母親が語るところによると、先輩のベッドの周囲が黒く汚れていたらしい。 さわると油のように粘着き、掃除に随分手間取ったそうだ。 「原因って、わかる?」 「ンなわけないじゃん!知ってたら言うでしょ…。ま、気づかなかったのは変だけど」  友人と別れ、3人は顔を寄せる。 「どう思う?」 「どうもなにも、和久井の家に行こう!もし開いてたら…」 「ちょっと前進したな」  和久井の家に押し掛け、挨拶もそこそこに自室に突入。 3人の背中に、和久井が文句をぶつけてくるが、そちらに意識は向かない。 ――穴はあった。  本人に指摘すると、驚いたように目を瞠った。 やや大げさな動作だが、隠していたようには見えない。 相変わらず死人のように病んだ容姿だが、先日訪ねた時から目立った変化はない。 「これ、いつ開けたんだよ」 「知らない。後で直しておくわ。教えてくれてありがと」  さらに注意深く見て回ったが、黒い汚れは見当たらない。 兵馬はこれも訊ねてみたが、芳しい返答は期待していなかった。 3人は軽く雑談してから、和久井家を出た。 「結局、原因不明かー。なんで穴、開いたのかな?」 「ひょっとしたら、ネズミかも」 「あの、動画に出た奴か」
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