第1章 悪夢の中へ

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 孝則が神妙な顔で言った。 彼の中では、窓の隅に空いた穴と、動画の怪生物が結びついていた。 あのネズミに似た生き物が、二人に何かしたのではないか? 「まさか」 「わかんないよ~」  兵馬は和久井を、病院に放り込んでみる方法を考えてみた。 受診を拒否するなら、寝ているところを縛るのはどうか? 「強引に連れてくのはナイでしょ…」 「じゃ、どうすんだよ?面倒くせぇな」  兵馬が話を振ると、二人も考え始めた。 「自分の為ってのがダメなら、家族の為…?心配してることを伝えてみれば…」 「病院にも相談した方がよくない?」  兵馬は2人に別れを告げて、家路についた。 本人が診療を拒否する以上、自分達が口を出しても仕方がない。 動くべきは第三者ではなく、保護者だろう。 目に見えて異常なのだから、とっくに公機関に通報しているだろう。  その晩、兵馬は和久井を気にしないように努めつつ、床に就いた。 そして、夢を見る。 (じーちゃん家か?)  切妻造りの二階建て。 如何にも日当たりの良さそうな縁側の前に、兵馬は立っていた。 夢、と考えたのは音が全くしないからだ。 記憶にある限り、祖父の家では何かしら、動物の鳴き声が聞こえていた。 靴を脱ぎ、縁側から奥に入る。 居間を通り抜け、台所に足を踏み入れようとして…止まった。 ――何もない。  フローリングがあるべき場所には、灰色の虚無だけがあった。 思わず振り返ってみると、そこは思い出のまま。 気怠い午後の光に照らされている、年老いた部屋。 靴を履き、裏に回ってみたが異常はない。両隣や向かいを見て回ったが、生物の気配はどこにもない。  兵馬は果てしなく続いているような通りを走った。 誰かいないか?いや、夢なのだからいるわけはない。 100m走ったところで不安になり、立ち止まる。 ――飛ぶしかないか…?  兵馬は祖父の家を象った民家に戻り、台所に入った。 玄関から入ってみても結果は同じ。 冥府の果てまで続いているような、隙間が開いている。 兵馬は茶碗をひとつ、穴に落としてみた。 30数えてみたが、何の音もしない。 ――くっそぉ…!夢だよな、怖くなってきたんだけど…!  兵馬は意を決して飛び込んだ。 落ちて、落ちて、落ちる。 頭上から台所の天井が来ても、まだ落ちる。
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