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孝則が神妙な顔で言った。
彼の中では、窓の隅に空いた穴と、動画の怪生物が結びついていた。
あのネズミに似た生き物が、二人に何かしたのではないか?
「まさか」
「わかんないよ~」
兵馬は和久井を、病院に放り込んでみる方法を考えてみた。
受診を拒否するなら、寝ているところを縛るのはどうか?
「強引に連れてくのはナイでしょ…」
「じゃ、どうすんだよ?面倒くせぇな」
兵馬が話を振ると、二人も考え始めた。
「自分の為ってのがダメなら、家族の為…?心配してることを伝えてみれば…」
「病院にも相談した方がよくない?」
兵馬は2人に別れを告げて、家路についた。
本人が診療を拒否する以上、自分達が口を出しても仕方がない。
動くべきは第三者ではなく、保護者だろう。
目に見えて異常なのだから、とっくに公機関に通報しているだろう。
その晩、兵馬は和久井を気にしないように努めつつ、床に就いた。
そして、夢を見る。
(じーちゃん家か?)
切妻造りの二階建て。
如何にも日当たりの良さそうな縁側の前に、兵馬は立っていた。
夢、と考えたのは音が全くしないからだ。
記憶にある限り、祖父の家では何かしら、動物の鳴き声が聞こえていた。
靴を脱ぎ、縁側から奥に入る。
居間を通り抜け、台所に足を踏み入れようとして…止まった。
――何もない。
フローリングがあるべき場所には、灰色の虚無だけがあった。
思わず振り返ってみると、そこは思い出のまま。
気怠い午後の光に照らされている、年老いた部屋。
靴を履き、裏に回ってみたが異常はない。両隣や向かいを見て回ったが、生物の気配はどこにもない。
兵馬は果てしなく続いているような通りを走った。
誰かいないか?いや、夢なのだからいるわけはない。
100m走ったところで不安になり、立ち止まる。
――飛ぶしかないか…?
兵馬は祖父の家を象った民家に戻り、台所に入った。
玄関から入ってみても結果は同じ。
冥府の果てまで続いているような、隙間が開いている。
兵馬は茶碗をひとつ、穴に落としてみた。
30数えてみたが、何の音もしない。
――くっそぉ…!夢だよな、怖くなってきたんだけど…!
兵馬は意を決して飛び込んだ。
落ちて、落ちて、落ちる。
頭上から台所の天井が来ても、まだ落ちる。
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