第1章 悪夢の中へ

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 足元に目を向けようとした刹那、何かの影が視界の端に映った。 確かめようとした兵馬だったが、その時にはもう、影は遥か頭上に去ってしまう。 再び顔を下ろした時、兵馬は黄金色に照り輝く浜辺を見た。 そこに意識を向けた瞬間、足裏から砂の感触が昇ってくる。 ――そこで目が覚めた。  夜明け前、暗い自室を兵馬は見回す。 先ほどから胸騒ぎがしており、それはだんだん強くなっていく。 疑問に思い、ベッドの上で身を起こした時、何かの影を捉えた。 「うお!!」  飛び掛かってきた影を打ち払う。 しっかりとした肌触り。毛が生えており、兵馬はカーペットを連想した。 払った手応えは人に似ている。 ボールがぶつかったような音が部屋に響いた。  兵馬は立ち上がり、電気のスイッチに向かう。 早くも目が慣れており、携帯の明りが無くともおおよその状況が把握できた。 影はクローゼットの側で寝転がっている。 「…なんだよこれ」  そこにいたのは小型猫のような生き物であった。 長い尾を持つ、小汚い四足歩行。 兵馬が近づくと、ネズミに似たそれはか細い鳴き声を上げた。 ――起きてねぇよな。  兵馬は聞き耳を立てる。 今の騒ぎで小さくない音を立てたが、まだ寝ているだろうか。 もしこの現場を見られたら、説明が面倒臭いのだが。 息を潜めたが足音は聞こえない。 ――こいつ、見せてみるか。  兵馬は中学時代の通学鞄を取り出すと、そこにネズミを放り込んだ。 自分の物持ちの良さが今だけは誇らしい。 見ると手が汚れていた為、兵馬は洗面所に向かった。  すっかり眼が冴えた兵馬は、それからずっと起きていた。 いつもとほぼ同じ時間に家を出て、孝則と合流する。 まもなく葵がやってきたが、見るからに上機嫌だった。 孝則が尋ねると、彼女は素直に答えた。 和久井が入院することになったらしい。 「え、急展開~!でも良かったー」 「うん!即入院だって…でも入院したなら、もう大丈夫だよね」 「そりゃそうでしょ!…で話変わるけどさ、ネズミ出たんだって?」  ネズミの出現について、孝則には登校前に知らせてある。 「…もしかして」 「持ってくるかよ。今、家」 「えと、死んでるの?」  葵は恐る恐る兵馬に尋ねる。 ネズミを殴り倒した話を聞き、気味悪く思ったのかもしれない。 「生きてるだろ、鳴き声したし」 「生きてるんだ…」
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