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足元に目を向けようとした刹那、何かの影が視界の端に映った。
確かめようとした兵馬だったが、その時にはもう、影は遥か頭上に去ってしまう。
再び顔を下ろした時、兵馬は黄金色に照り輝く浜辺を見た。
そこに意識を向けた瞬間、足裏から砂の感触が昇ってくる。
――そこで目が覚めた。
夜明け前、暗い自室を兵馬は見回す。
先ほどから胸騒ぎがしており、それはだんだん強くなっていく。
疑問に思い、ベッドの上で身を起こした時、何かの影を捉えた。
「うお!!」
飛び掛かってきた影を打ち払う。
しっかりとした肌触り。毛が生えており、兵馬はカーペットを連想した。
払った手応えは人に似ている。
ボールがぶつかったような音が部屋に響いた。
兵馬は立ち上がり、電気のスイッチに向かう。
早くも目が慣れており、携帯の明りが無くともおおよその状況が把握できた。
影はクローゼットの側で寝転がっている。
「…なんだよこれ」
そこにいたのは小型猫のような生き物であった。
長い尾を持つ、小汚い四足歩行。
兵馬が近づくと、ネズミに似たそれはか細い鳴き声を上げた。
――起きてねぇよな。
兵馬は聞き耳を立てる。
今の騒ぎで小さくない音を立てたが、まだ寝ているだろうか。
もしこの現場を見られたら、説明が面倒臭いのだが。
息を潜めたが足音は聞こえない。
――こいつ、見せてみるか。
兵馬は中学時代の通学鞄を取り出すと、そこにネズミを放り込んだ。
自分の物持ちの良さが今だけは誇らしい。
見ると手が汚れていた為、兵馬は洗面所に向かった。
すっかり眼が冴えた兵馬は、それからずっと起きていた。
いつもとほぼ同じ時間に家を出て、孝則と合流する。
まもなく葵がやってきたが、見るからに上機嫌だった。
孝則が尋ねると、彼女は素直に答えた。
和久井が入院することになったらしい。
「え、急展開~!でも良かったー」
「うん!即入院だって…でも入院したなら、もう大丈夫だよね」
「そりゃそうでしょ!…で話変わるけどさ、ネズミ出たんだって?」
ネズミの出現について、孝則には登校前に知らせてある。
「…もしかして」
「持ってくるかよ。今、家」
「えと、死んでるの?」
葵は恐る恐る兵馬に尋ねる。
ネズミを殴り倒した話を聞き、気味悪く思ったのかもしれない。
「生きてるだろ、鳴き声したし」
「生きてるんだ…」
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