第1章 悪夢の中へ

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 授業後、葵は病院に出かけた。 2人で加賀家に向かう途中、兵馬は何者かの視線を感じた。 「どした?」 「何でもない」  兵馬は自室に入り、古びた通学鞄を取り出す。 臭いは漂ってこない。 息を呑む孝則に中が見えるようにしながら、鞄を開いた。 「おぉおお――ッ!」  化けネズミは鞄の中、息絶えていたらしい。 持ち上げるとズシリと重く、また身動きをしない。 鼻を近づけると、腐敗しつつある生ごみのような臭いがした。 「ビビり過ぎだろ…」 「だって、うぅエ!」  孝則は足だけを動かして後退する。 壁に背をつけてえづく孝則を、兵馬が咎める。 吐くならさっさと便所に行け。 「そいつどうすんの!?」 「んー、家にいつまでも置いとけないしな」  兵馬は携帯を取り出す。 大人に見せても何も分からない気がするが、通報しておいて損はない。 ――どこに連絡すりゃいいんだ?  ネットに繋いで検索してみると、生物博物館か大学の研究室で問題なさそうだ。 しかしそのような場所に持ち込んで、受け取ってもらえるだろうか? 兵馬にそのあたりの伝手はないし、孝則も同じだ。 「人目につかなそーなトコに埋めれば?メンドくせーし、俺らが見つけるくらいだから、だれか連絡してるっしょ」 「そっか…そうだな~」  兵馬はネズミ入りのかばんを手に取って、立ち上がった。 元々気が進まなかったのだ。どこかに埋めて、忘れればいいか。 孝則は疲れた足取りで、その後ろからついてくる。 「これなんなのかな、新種っぽいけど」 「知らねぇ…こいつが犯人かも」  兵馬は冗談めかして言う。 「えー、怖ェ~!」 「いや、お前が行ったんだろ!」  孝則と別れて、兵馬は近所にある鯉窪公園に向かった。 本音を言うともっと遠い場所に埋めておきたいが、これで地下鉄に乗ろうものなら、それこそ通報されてしまう。 鯉窪公園は溜池や雑木林があり、何か隠すにはもってこいだ。 おかげで死体が埋まっている、などと自由が丘の小学生からは噂されるが。
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