〈1〉【 chinatsu 1 】

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本気でそう思って、初めて近くで見る彼の横顔を見上げた。案外、近くてドキっとする。 右腕をギターに乗せたまま私の顔を振り向いた彼の顔が近づいてくる。 そしてそのままキスを。 あまりにもナチュラルで、避けることもできなかった。風に舞った桜の花弁が、たまたま唇にくっついてしまったみたいだ。 そして私は目を閉じてしまった。 さっきまで私の大好きな声を漏らしていた薄い唇は、珍しくグロスをつけていた私の唇に、5秒ほど重なって離れた。 離れる瞬間にあわてて目を開ける。目を閉じてしまったことを知られたくなかった。また悔しくなる。 「・・これが代金?・・」 彼を睨みたいと思ったけど、俯いてしまった。 「・・キスくらい、いいけど。」 私の言葉に彼は小さく笑った。 『・・安くみられたもんだな。』 笑いながら、綺麗な声で静かに言ったけど怒ってる。 「・・安くない!」 咄嗟に言ってしまった。 私、なんだか泣きそうになってるのはなぜだろう。 『そういう言い方はしないほうがいいでしょ?』 諭すみたいにやっぱり静かに言う。いきなりキスしたくせに。 『充分です。』 フォローになってない。泣きそうな気分は収まらない。自己嫌悪も入ってるから。 『ごめんなさい。いきなり。軽く見たわけじゃないから。何週間も待ったから。』     
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