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本気でそう思って、初めて近くで見る彼の横顔を見上げた。案外、近くてドキっとする。
右腕をギターに乗せたまま私の顔を振り向いた彼の顔が近づいてくる。
そしてそのままキスを。
あまりにもナチュラルで、避けることもできなかった。風に舞った桜の花弁が、たまたま唇にくっついてしまったみたいだ。
そして私は目を閉じてしまった。
さっきまで私の大好きな声を漏らしていた薄い唇は、珍しくグロスをつけていた私の唇に、5秒ほど重なって離れた。
離れる瞬間にあわてて目を開ける。目を閉じてしまったことを知られたくなかった。また悔しくなる。
「・・これが代金?・・」
彼を睨みたいと思ったけど、俯いてしまった。
「・・キスくらい、いいけど。」
私の言葉に彼は小さく笑った。
『・・安くみられたもんだな。』
笑いながら、綺麗な声で静かに言ったけど怒ってる。
「・・安くない!」
咄嗟に言ってしまった。
私、なんだか泣きそうになってるのはなぜだろう。
『そういう言い方はしないほうがいいでしょ?』
諭すみたいにやっぱり静かに言う。いきなりキスしたくせに。
『充分です。』
フォローになってない。泣きそうな気分は収まらない。自己嫌悪も入ってるから。
『ごめんなさい。いきなり。軽く見たわけじゃないから。何週間も待ったから。』
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