〈プロローグ〉【 anna X 】*

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〈プロローグ〉【 anna X 】*

千夏(ちなつ)がクラブにくるのは、本当に久しぶりだった。 あの日から彼女はトランスが聴けなかったから。今日は私の誕生日だし、仕事関係の誘いだから頑張ったんだろう。 『時間も経ってるから大丈夫だよ。』 彼女はそう言った。それでも顔色が悪かったように思ったのは思い過ごしだろうか。 2年半前のあの日、カウンターで音に(ひた)っていた私たちのところにやってきた女が、千夏の耳元で言った。 『一昨日、彼と寝たから。』 隣で耳を澄ましていた私にも小さく聞こえた。 女はそのあとヒラヒラと手を振りながら離れていった。 追いかけようとした私の手を、真っ青になった千夏が握って止めた。千夏は何も言わなかった。 そしてあの日は、彼女には珍しくベロベロになるまで呑んでビルの陰で吐いたんだ。 あれから千夏はクラブに来なくなった。私も誘わなかった。だから2年半ぶりだろう。 あの半年後、あいつは千夏の前から消えた。 そして2年、千夏はあいつを待ち続けている。
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